不妊に関する総合ガイド:1. 不妊とは何か 

不妊に関する総合ガイド:1. 不妊とは何か 

「なかなか妊娠しない…」そんな不安や焦りを感じているあなたは、決して一人ではありません。日本では約5.5組に1組のカップルが不妊の問題に直面しています。不妊とは単なる「妊娠できない」状態ではなく、「妊娠までに時間がかかっている状態」です。

原因は女性側だけでなく男性側にもあり、また両方または原因不明のケースもあります。本記事では、不妊の基礎知識から検査・治療法、心のケア、生活改善まで幅広く解説します。正しい知識と適切なサポートがあれば、多くのカップルが前向きに不妊と向き合い、自分たちらしい家族づくりへの道を見つけることができるのです。不妊治療の進歩や社会的支援の拡充も進む今、希望を持って一歩を踏み出すための情報をお届けします。





不妊の定義と分類



WHOによる不妊の定義

世界保健機関(WHO)は、「不妊」を「性生活を定期的に行っているカップルが、避妊をしていないにもかかわらず、12ヶ月以上妊娠に至らない状態」と定義しています。

この定義に基づくと、実は35歳未満のカップルの約80〜90%は1年以内に妊娠しているとされ、残りの10〜20%が「不妊」の状態にあるとみなされます。

ただし、この定義は医学的な目安であり、個々の体の状態や年齢によって状況は大きく異なることを理解しておく必要があります。



原発性不妊と続発性不妊の違い

不妊は大きく「原発性不妊」と「続発性不妊」に分類されます。原発性不妊とは、これまで一度も妊娠したことがない状態での不妊を指します。

一方、続発性不妊は過去に少なくとも一度は妊娠した経験(流産や人工妊娠中絶を含む)がある方が、その後妊娠できない状態を指します。


続発性不妊の場合、過去に妊娠できた実績があるため、基本的な生殖機能が存在していた証明になりますが、年齢とともに生殖能力は変化するため、以前妊娠できたからといって現在も同様とは限りません。



不妊と妊娠しにくさの境界線

「不妊症」という診断名はありますが、実際には明確な境界線があるわけではありません。妊娠のしやすさには個人差があり、不妊と診断されても多くの方が時間はかかるものの自然妊娠に至るケースも少なくありません。

また、医学的には「不妊」と定義される期間(12ヶ月)に満たなくても、35歳以上の方や何らかの生殖器系の疾患がある場合は、6ヶ月経過した時点で不妊検査を開始することが推奨されています。

大切なのは、「不妊=絶対に妊娠できない」というわけではなく、「妊娠までに時間がかかっている状態」という認識を持つことです。


不妊の現状と統計データ

日本における不妊の割合と推移

国立社会保障・人口問題研究所の調査によると、日本では夫婦の約5.5組に1組(約18%)が不妊の状態にあるとされています。また、不妊治療を受けたことがあるカップルの割合は年々増加しており、近年では約6組に1組が何らかの不妊治療を経験しています。

この背景には、不妊治療の進歩や社会的認知の高まりもありますが、晩婚化や環境要因の影響なども指摘されています。



年齢と不妊率の関係

女性の年齢と不妊率には明確な相関関係があります。20代後半の女性の不妊率が約10%であるのに対し、35歳では約20%、40歳では約40%、43歳以上では約90%と急激に上昇します。

これは主に卵子の質と量の低下によるものですが、女性だけでなく男性も加齢とともに精子の質が低下することが分かっています。

ただし、男性の加齢による影響は女性ほど急激ではなく、年齢による影響の出方にはジェンダー差があります。



晩婚化と不妊問題

日本の平均初婚年齢は年々上昇し、女性は29.4歳、男性は31.1歳(2020年時点)となっています。晩婚化に伴い、第一子出産時の母親の平均年齢も30.7歳と上昇しています。

これは生物学的な妊娠のピーク期を過ぎてからの妊活開始が増えていることを意味し、社会的な選択と生物学的な現実のギャップが不妊に悩むカップルの増加につながっています。仕事とライフプランのバランスを考慮した早めの情報収集と計画が重要となっています。


自然妊娠の仕組みと不妊の関係

卵子と精子の出会いまでの道のり

自然妊娠において、卵子と精子が出会うまでには数々のハードルがあります。女性の体内では、通常毎月1つの卵子が卵巣から排出され、卵管へと取り込まれます。

一方、男性から放出された2億~3億個の精子のうち、子宮頸管を通過できるのはわずか数千個程度です。さらに、子宮内を通り抜け、卵管まで到達するのはわずか数百個とされています。

この過程のどこかに障害があると、卵子と精子の出会いが阻害され、不妊の原因となります。



受精から着床までのプロセス

卵子と精子が出会い受精すると、受精卵は分裂を繰り返しながら卵管を通って子宮へと移動します。この移動には3~4日かかり、その間に受精卵は桑実胚、胚盤胞へと成長します。

子宮に到達した胚盤胞は、排卵後6~10日頃に子宮内膜に着床します。このプロセスには卵管の状態、子宮内膜の厚さや受容性、胚の質など様々な要素が関わっており、どれか一つでも問題があると着床に至らず、不妊の原因となります。



妊娠成立の確率とタイミング

健康な若いカップルでも、1周期あたりの妊娠成立確率は20~25%程度といわれています。これは自然妊娠がいかに精緻なプロセスであるかを示しています。最も妊娠しやすいのは排卵日とその前日とされ、排卵日の2日前から排卵日までの間に性交渉を持つことで妊娠率が最も高くなります。

しかし、精子は女性の体内で3~5日間生存できるため、排卵日の5日前から性交渉があれば妊娠の可能性はあります。適切なタイミングを逃さないことが重要ですが、過度に神経質になると逆にストレスとなり、ホルモンバランスに悪影響を及ぼす可能性もあるため、バランスが重要です。


よくある質問(Q&A)

Q1: 不妊治療はいつから始めるべきですか?

A1: 一般的には、35歳未満の女性であれば避妊せずに12ヶ月経っても妊娠しない場合、35歳以上であれば6ヶ月経っても妊娠しない場合に不妊検査を検討するタイミングとされています。ただし、月経不順や子宮内膜症などの既往歴がある場合は、もっと早い段階での受診が推奨されます。男性側にも泌尿器科的な問題がある場合は早めの受診が望ましいでしょう。不妊治療は時間との戦いでもあるため、特に女性が35歳を超える場合は、気になるようであれば早めに専門医に相談することをお勧めします。



Q2: 不妊治療の成功率はどれくらいですか?

A2: 不妊治療の成功率は治療法や年齢、不妊原因によって大きく異なります。一般的には、タイミング法では1周期あたり約10~15%、人工授精では約5~15%、体外受精では35歳未満で約40~50%、35~37歳で約35~40%、38~40歳で約25~30%、41~42歳で約15~20%、43歳以上では10%未満とされています。これらは1回の治療周期あたりの臨床妊娠率であり、累積妊娠率(複数回の治療を合わせた妊娠率)はこれより高くなります。ただし、妊娠しても流産するリスクもあり、これも年齢とともに上昇します。成功率は医療機関によっても差があるため、複数の施設の実績を比較することも参考になります。



Q3: 不妊治療中の仕事との両立はどうすればよいですか?

A3: 不妊治療は通院頻度が高く、特に体外受精では急な診察が必要になることも多いため、仕事との両立は大きな課題です。効果的な両立のためには、①可能であれば職場に状況を伝え理解を求める(プライバシーに配慮した相談体制があるか確認する)、②不妊治療に理解のある職場環境や柔軟な勤務体制を持つ企業を選ぶ、③時差出勤やフレックスタイム、在宅勤務などの制度を活用する、④通院のために有給休暇や時間単位の休暇を効率的に使う、⑤通院しやすい立地のクリニックを選ぶ、⑥同じような状況の方との情報交換で両立のコツを学ぶ、などの工夫が効果的です。2022年4月からは不妊治療のための休暇制度の整備や相談体制の構築が事業主の努力義務となりましたので、職場の制度を確認することをお勧めします。治療と仕事の優先順位は個人の価値観や状況によって異なりますので、パートナーとよく話し合い、無理のない計画を立てることが大切です。

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