不妊に関する総合ガイド:4. 不妊治療の種類と選び方

不妊に関する総合ガイド:4. 不妊治療の種類と選び方

「なかなか妊娠しない…」そんな不安や焦りを感じているあなたは、決して一人ではありません。日本では約5.5組に1組のカップルが不妊の問題に直面しています。不妊とは単なる「妊娠できない」状態ではなく、「妊娠までに時間がかかっている状態」です。

原因は女性側だけでなく男性側にもあり、また両方または原因不明のケースもあります。

本記事では、不妊の基礎知識から検査・治療法、心のケア、生活改善まで幅広く解説します。正しい知識と適切なサポートがあれば、多くのカップルが前向きに不妊と向き合い、自分たちらしい家族づくりへの道を見つけることができるのです。不妊治療の進歩や社会的支援の拡充も進む今、希望を持って一歩を踏み出すための情報をお届けします。





タイミング法



タイミング法の基本と効果

タイミング法は最も基本的な不妊治療法で、女性の排卵日を予測し、その前後に性交渉をもつことで妊娠の確率を高める方法です。自然な妊娠を目指す治療法であり、比較的若いカップルや軽度の排卵障害、精液所見に軽度の異常がある場合などに適しています。

タイミング法による妊娠率は月経周期あたり約10~15%程度とされ、女性の年齢が若いほど成功率が高くなります。一般的には3~6ヶ月を目安に効果を評価し、妊娠に至らない場合は次のステップの治療を検討します。

タイミング法のメリットは、体への負担が少なく自然に近い形で妊娠を目指せること、費用が比較的安いこと、特別な手技や入院を必要としないことなどが挙げられます。

一方、デメリットとしては、「計画的な性生活」によるストレスやプレッシャー、性生活の自然さが失われる可能性などがあります。年齢や不妊期間、不妊原因などを考慮して医師と相談しながら進めることが大切です。



排卵日予測の方法

排卵日を正確に予測することがタイミング法の鍵となります。

主な予測方法としては、①基礎体温表による推測(過去の周期から次の排卵日を予測)、②排卵検査薬の使用(尿中LHサージを検出)、③超音波検査による卵胞モニタリング(卵胞の大きさを測定)などがあります。基礎体温法では、低温期から高温期への移行日(体温上昇日)の前日が排卵日と推定されますが、あくまで排卵後の推測となるため、次の周期の予測に用います。

より正確なのは排卵検査薬で、LHサージ検出から24~36時間後に排卵が起こるとされています。最も正確なのは超音波検査で、卵胞径が18mm前後になると排卵が近いと判断されます。

これらの方法を組み合わせることで、より精度の高い排卵日予測が可能になります。また、頸管粘液の性状変化(排卵期には透明でよく伸びる状態になる)も参考になります。医師の指導のもと、自分に合った方法を見つけることが重要です。



タイミング法での注意点

タイミング法を成功させるためには、いくつかの注意点があります。まず、過度に頻繁な性交渉は男性側の精子の質や量の低下につながる可能性があるため、排卵2~3日前から排卵日にかけて2~3日おきに行うのが理想的です。

また、「計画的な性交渉」によるプレッシャーやストレスは男性の性機能障害や女性のホルモンバランスの乱れを引き起こす可能性があるため、リラックスした雰囲気を心がけることが大切です。

さらに、タイミング法は年齢依存性が高く、女性が35歳を超えると成功率が低下するため、3~6ヶ月試みて妊娠しない場合は、特に高齢カップルでは次のステップに進むことを検討します。

また、勤務形態などで排卵期に夫婦が離れている場合は、スケジュール調整が必要になることもあります。最後に、タイミング法は自然妊娠を目指す方法であるため、もともと自然妊娠が困難な重度の男性不妊や卵管閉塞、高度な排卵障害などがある場合は、最初から他の治療法を選択することも検討されます。

人工授精

人工授精の適応と成功率

人工授精(AIH:Artificial Insemination with Husband's semen)は、夫の精液を採取・調整して、細いカテーテルを用いて直接子宮内に注入する治療法です。

主な適応としては、①タイミング法で妊娠しない場合、②軽度~中等度の男性不妊(精子の数や運動率がやや低い場合)、③頸管粘液の問題(量が少ない、精子の通過性が悪いなど)、④性交障害がある場合、⑤原因不明不妊などが挙げられます。

一方、精子がほとんどない重度の男性不妊や、卵管閉塞がある場合には適していません。人工授精の成功率は1回あたり約5~15%程度で、女性の年齢や不妊原因によって大きく変動します。

一般的に3~6回試みても妊娠しない場合は、体外受精などの高度生殖医療へのステップアップを検討します。人工授精は体外受精と比べて身体的負担や費用が少ない半面、成功率も低いため、年齢やそれまでの不妊期間を考慮して適切な治療法を選択することが重要です。



人工授精の流れと所要時間

人工授精は通常、自然周期または排卵誘発剤を使用して行われます。基本的な流れは以下の通りです。まず、月経開始から排卵までの間に数回の超音波検査を行い、卵胞の発育状況を確認します。

卵胞径が17~18mm程度になり排卵が近いと判断されると、排卵日を決定し、その当日に人工授精を行います。人工授精当日は、まず夫が精液を提出し、約1~2時間かけて精液調整(洗浄・濃縮)が行われます。

その後、女性は婦人科の診察台で内診の体勢をとり、細いカテーテルを用いて調整済みの精子を子宮内に注入します。注入自体は数分で終わり、痛みもほとんどありません。

注入後は10~30分程度の安静時間を取り、その後は通常の生活に戻れます。人工授精当日の所要時間は、精液提出から全て含めて2~3時間程度です。

また、人工授精は外来で行われる手技であり、入院の必要はなく、麻酔も不要です。人工授精後の過ごし方に特別な制限はありませんが、激しい運動や性行為は1~2日避けることが推奨されることもあります。



人工授精にかかる費用

人工授精の費用は医療機関によって異なりますが、一般的に1回あたり約2~5万円程度(2023年時点)です。この費用には、排卵モニタリングのための超音波検査、精液調整、人工授精の手技などが含まれます。

排卵誘発剤を使用する場合は、それらの薬剤費用が追加されます。2022年4月から不妊治療の保険適用が始まり、人工授精も保険診療となりましたが、保険適用には一定の条件(正式な婚姻関係にあることなど)があります。

保険適用の場合、自己負担額は3割となり、1回あたり約6,000~1万5,000円程度に抑えられます。

また、高額療養費制度の利用や自治体独自の助成金制度を利用することで、さらに経済的負担を軽減できる可能性があります。ただし、保険適用外の検査や治療を併用する場合は別途費用がかかることがあるため、事前に医療機関で確認しておくことをお勧めします。

人工授精は比較的低コストの治療法ですが、複数回繰り返すことも多いため、長期的な経済計画も考慮することが大切です。

体外受精・顕微授精

一般体外受精と顕微授精の違い

体外受精(IVF:In Vitro Fertilization)は、排卵誘発剤を用いて複数の卵子を発育させ、採卵して体外で精子と卵子を受精させる方法です。

一方、顕微授精(ICSI:Intracytoplasmic Sperm Injection)は、体外受精の一種で、選別した1つの精子を特殊な針で直接卵子内に注入する方法です。一般体外受精では、卵子の周りに多数の精子を置き、自然な受精を待ちますが、顕微授精では胚培養士が受精をアシストします。

両者の主な違いは、受精方法と適応です。一般体外受精は卵管因子、重度の子宮内膜症、排卵障害、原因不明不妊などに適していますが、精子の質や数に問題がある場合は受精率が低下します。

一方、顕微授精は重度の男性不妊(精子数・運動率・正常形態率の著しい低下)や、一般体外受精で受精しなかった場合などに選択されます。顕微授精は一般体外受精より受精率は高いものの、コストが若干高く、胚の発育や妊娠率については大きな差はないとされています。

どちらを選択するかは、不妊原因や過去の治療歴などを考慮して医師と相談して決定します。



採卵から胚移植までの流れ

体外受精・顕微授精の基本的な流れは以下の通りです。

まず、月経開始から排卵誘発剤の投与を開始し、複数の卵胞を発育させます(卵巣刺激)。超音波検査とホルモン検査で卵胞の発育をモニタリングしながら薬剤を調整し、卵胞径が18mm程度になると最終成熟のためのhCG注射または GnRHアゴニスト(トリガー注射)を行います。

その約34~36時間後に採卵が行われます。採卵は主に経腟超音波ガイド下で行われ、細い針で卵胞を穿刺して卵子を吸引します。採卵は局所麻酔または静脈麻酔下で行われ、約15~30分で終了します。

採卵と同日に夫から精液を採取し、体外受精または顕微授精を行います。受精確認は採卵翌日に行われ、その後胚は培養されます。胚移植は採卵から2~5日後(分割胚期または胚盤胞期)に行われることもありますが、最近では全胚凍結して次周期以降に融解胚移植を行うケースが増えています。

胚移植は外来で行われる簡単な処置で、細いカテーテルを用いて胚を子宮内に移植します。移植後は黄体補充(プロゲステロン製剤の投与)が行われ、移植から約2週間後に妊娠判定(血液hCG検査)を行います。



新鮮胚移植と凍結胚移植

体外受精で作られた胚は、採卵と同じ周期で移植する「新鮮胚移植」と、一度凍結保存してから別の周期に移植する「凍結胚移植」の2種類の方法があります。

従来は新鮮胚移植が主流でしたが、近年は凍結胚移植が増加傾向にあります。凍結胚移植のメリットとしては、①卵巣過剰刺激症候群(OHSS)のリスク軽減、②排卵誘発剤の影響を受けていない子宮内膜環境での移植、③胚盤胞まで培養する時間的余裕、④移植周期の柔軟なスケジュール調整が可能、などが挙げられます。特に、OHSSのリスクが高い多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)患者や、高刺激周期での採卵後には全胚凍結が推奨されることが多いです。

一方、新鮮胚移植は1周期で完結できるため、時間的なメリットがあります。凍結胚移植の周期は、自然排卵周期を利用する方法とホルモン補充周期(HRT周期)という2つの方法があり、患者さんの状態や希望に合わせて選択されます。胚凍結技術の進歩により、凍結・融解による胚のダメージは最小限に抑えられ、凍結胚移植の妊娠率は新鮮胚移植と同等かそれ以上とされていま

体外受精の成功率と妊娠率

体外受精・顕微授精の成功率(臨床妊娠率)は様々な要因によって大きく異なります。

最も影響が大きいのは女性の年齢で、35歳未満では1回の採卵周期あたり約40~50%、35~37歳では約35~40%、38~40歳では約25~30%、41~42歳では約15~20%、43歳以上では10%未満と言われています。

また、不妊原因(卵管因子、男性因子、子宮内膜症など)、卵巣予備能(AMH値など)、胚の質、移植胚の発育段階(分割胚か胚盤胞か)、移植胚数なども成功率に影響します。

一般的に、分割胚より胚盤胞の方が、また自然周期より人工周期の方が若干成功率が高い傾向にあります。

なお、体外受精で妊娠しても流産率は約15~25%あり、こちらも年齢とともに上昇します。体外受精は高度な医療技術ですが万能ではなく、複数回の治療を要することも多いため、精神的・身体的・経済的な準備と医師との綿密な相談が重要です。

また、医療機関によって成績に差があるため、複数の施設の実績を比較検討することも参考になります。

不妊治療の費用と公的支援

治療方法別の自己負担額

不妊治療の費用は治療法によって大きく異なります。タイミング法は基本的な検査と診察料のみのため比較的安価で、月あたり約5,000~2万円程度です。人工授精は1回あたり約2~5万円、排卵誘発剤を使う場合はさらに1~3万円程度加算されます。

体外受精・顕微授精は最も高額で、1回の採卵周期で約30~50万円、凍結胚移植は1回あたり約20~30万円かかるとされていました。

しかし、2022年4月から不妊治療の保険適用が開始され、体外受精や顕微授精も含めて大幅に患者負担が軽減されました。保険適用後の自己負担額(3割負担の場合)は、タイミング法で月約3,000~6,000円、人工授精で1回約6,000~1万5,000円、体外受精で1回約9~15万円程度と言われています。

ただし、保険適用には年齢制限(女性43歳未満)や回数制限(1子につき採卵6回まで、胚移植合計10回まで)などの条件があります。また、すべての治療や検査が保険適用となるわけではなく、先進医療や自費診療を選択する場合は追加費用が発生します。経済的な負担を考慮した治療計画が重要です。

不妊治療の保険適用について

2022年4月から不妊治療の保険適用が大幅に拡大され、従来は自費診療だった体外受精や顕微授精も保険診療となりました。保険適用の条件は主に以下の通りです。

①患者の年齢が43歳未満であること(誕生日前日まで)、②正式に婚姻している夫婦であること、③1子あたりの治療回数制限として、初回の治療開始時点で40歳未満は採卵6回・胚移植10回まで、40~42歳は採卵3回・胚移植5回まで、④精子・卵子・胚の凍結保存は治療の一環として認められるが、妊娠目的以外の凍結(がん治療前などの未来の妊娠に備えた凍結)は対象外、などです。

保険適用となる具体的な治療内容には、薬物療法(排卵誘発剤など)、人工授精、体外受精、顕微授精、胚や配偶子の凍結保存(1年間)、精巣内精子回収法(TESE)などが含まれます。

一方、第三者の精子や卵子を用いた治療、代理出産、PGT-A(着床前胚染色体異数性検査)などは保険適用外です。保険適用により経済的負担は大幅に軽減されましたが、制限や条件も多いため、詳細は医療機関に確認することをお勧めします。

助成金制度と申請方法

不妊治療の保険適用が始まった現在でも、様々な公的支援制度が利用できます。まず、国の制度として高額療養費制度があり、医療費の自己負担額が一定額を超えた場合に超過分が払い戻されます(所得に応じて上限額が設定されています)。

また、多くの自治体では独自の不妊治療助成金制度を設けており、保険適用外の治療や検査、男性不妊治療、不育症治療などを対象としていることが多いです。助成金の金額や条件は自治体によって異なりますが、一般的に夫婦の所得制限、年齢制限、助成回数制限などが設けられています。

申請方法は基本的に居住地の自治体窓口に必要書類(申請書、医師の証明書、住民票、所得証明書など)を提出する形となりますが、オンライン申請を受け付けている自治体も増えています。

また、不妊治療にかかる医療費は「医療費控除」の対象となり、確定申告をすることで税金の還付を受けられる可能性があります。さらに、一部の企業では不妊治療のための休暇制度や費用補助制度を設けているため、勤務先の福利厚生制度も確認することをお勧めします。

職場での両立支援制度

近年、不妊治療と仕事の両立を支援するための制度や取り組みが広がっています。2022年4月に施行された改正育児・介護休業法では、不妊治療のための休暇制度の整備や、相談体制の構築などが事業主の努力義務となりました。

具体的な支援制度としては、①不妊治療休暇制度(有給・無給を問わず治療のための特別休暇)、②時差出勤やフレックスタイム制度、③短時間勤務制度、④在宅勤務・テレワーク制度、⑤通院のための時間単位の休暇取得、などがあります。

これらの制度を利用するためには、上司や人事部門に不妊治療を行っていることを伝える必要がありますが、プライバシーに配慮した相談体制を整えている企業も増えています。

また、厚生労働省は「不妊治療を受けながら働き続けられる職場づくりのためのマニュアル」を公開し、企業向けのガイドラインも提供しています。

不妊治療は通院頻度が高く、特に体外受精では急な診察が必要になることも多いため、治療と仕事の両立は大きな課題です。治療開始前に職場の制度を確認し、必要に応じて上司や産業医、人事担当者に相談することをお勧めします。

近年は「不妊治療と仕事の両立支援」に積極的に取り組む企業も増えていますので、転職を検討する際の参考にすることもできます。


よくある質問(Q&A)

Q1: 不妊治療はいつから始めるべきですか?

A1: 一般的には、35歳未満の女性であれば避妊せずに12ヶ月経っても妊娠しない場合、35歳以上であれば6ヶ月経っても妊娠しない場合に不妊検査を検討するタイミングとされています。ただし、月経不順や子宮内膜症などの既往歴がある場合は、もっと早い段階での受診が推奨されます。男性側にも泌尿器科的な問題がある場合は早めの受診が望ましいでしょう。不妊治療は時間との戦いでもあるため、特に女性が35歳を超える場合は、気になるようであれば早めに専門医に相談することをお勧めします。



Q2: 不妊治療の成功率はどれくらいですか?

A2: 不妊治療の成功率は治療法や年齢、不妊原因によって大きく異なります。一般的には、タイミング法では1周期あたり約10~15%、人工授精では約5~15%、体外受精では35歳未満で約40~50%、35~37歳で約35~40%、38~40歳で約25~30%、41~42歳で約15~20%、43歳以上では10%未満とされています。これらは1回の治療周期あたりの臨床妊娠率であり、累積妊娠率(複数回の治療を合わせた妊娠率)はこれより高くなります。ただし、妊娠しても流産するリスクもあり、これも年齢とともに上昇します。成功率は医療機関によっても差があるため、複数の施設の実績を比較することも参考になります。



Q3: 不妊治療中の仕事との両立はどうすればよいですか?

A3: 不妊治療は通院頻度が高く、特に体外受精では急な診察が必要になることも多いため、仕事との両立は大きな課題です。効果的な両立のためには、①可能であれば職場に状況を伝え理解を求める(プライバシーに配慮した相談体制があるか確認する)、②不妊治療に理解のある職場環境や柔軟な勤務体制を持つ企業を選ぶ、③時差出勤やフレックスタイム、在宅勤務などの制度を活用する、④通院のために有給休暇や時間単位の休暇を効率的に使う、⑤通院しやすい立地のクリニックを選ぶ、⑥同じような状況の方との情報交換で両立のコツを学ぶ、などの工夫が効果的です。2022年4月からは不妊治療のための休暇制度の整備や相談体制の構築が事業主の努力義務となりましたので、職場の制度を確認することをお勧めします。治療と仕事の優先順位は個人の価値観や状況によって異なりますので、パートナーとよく話し合い、無理のない計画を立てることが大切です。

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謙行 柳澤
銀座漢方天風堂薬局 代表
https://ginzakampo.com

国家試験 ・薬剤師免許 ・針師 ・灸師免許 ・按摩 ・マッサージ ・指圧師免許 ・臨床検査技師免許 ・ケアマネージャー資格取得