冷えとむくみは同じ根っこ|薬剤師が水毒5タイプで見立てる漢方の整え方

冷えとむくみは同じ根っこ|薬剤師が水毒5タイプで見立てる漢方の整え方
監修:柳澤 謙行(やなざわ けんこう)
銀座漢方天風堂薬局 薬剤師(薬剤師歴45年以上)
体質を見立てて生薬を組み合わせる「あなたの一剤」を仕立てる煎じ薬を中心に、冷え・むくみ・婦人科・自律神経のご相談を専門とする。

冷えとむくみは同じ根っこ|薬剤師が水毒5タイプで見立てる漢方の整え方

夕方の脚のむくみと冷えを同時に感じる30〜40代女性のイメージ

「夏でも手足が冷たい」「夕方になると靴がきつい」「朝、顔がぼんやりむくむ」「体が重だるくて、何をしてもすっきりしない」「梅雨に入るたびに頭が重い」——こうしたお悩みは、当薬局でも年間を通じて最も多いご相談のひとつです。とくに30〜50代の女性で、冷えとむくみを同時に抱えていらっしゃる方は、問診票データでも半数近くにのぼります(※当薬局の漢方相談票分析 n=304、2026年5月時点)。

中医学では、冷えとむくみは別々の症状ではなく、ひとつの根っこ——水毒(水滞)——から出ている表裏一体のサインです。体の水分を温めながら巡らせる力(脾の運化・腎の陽気)が落ちると、温まらない水分が下半身や末端に溜まり、その水分そのものが体を冷やします。冷えてさらに巡らなくなる、という悪循環の入口が水毒です。この記事では、水毒を脾虚水停腎陽虚血虚水停気滞水停痰湿の5タイプに分けて見立て、当帰芍薬散・苓桂朮甘湯・真武湯・五苓散・防已黄耆湯の使い分け、初夏〜梅雨期の養生までまとめます。

この記事でわかること
  • なぜ冷えとむくみが同時に起きるのか(水毒の中医学的メカニズム)
  • あなたの水毒タイプが5つのうちどれか(5問×5タイプのセルフチェック)
  • 脾虚水停・腎陽虚・血虚水停・気滞水停・痰湿 5タイプの代表処方
  • 当帰芍薬散・苓桂朮甘湯・真武湯・五苓散・防已黄耆湯・八味地黄丸・半夏厚朴湯の使い分け
  • 「朝のむくみ」「夕方のむくみ」「全身のむくみ」で読み解く体質サイン
  • 利尿薬や西洋薬と漢方の安全な併用
  • 初夏〜梅雨期に水毒が悪化する仕組みと養生
  • 水毒の裏にある、6大体質(睡眠・婦人科・ダイエット・胃腸・妊活)との接点

1. なぜ冷えとむくみは同じ根っこから出るのか(水毒のメカニズム)

水毒のメカニズムを表す漢方生薬(桂枝・乾姜・茯苓・蒼朮・陳皮)の静物画

体に取り込まれた水分は、本来であれば脾(胃腸)が消化吸収し、腎の陽気で温められ、肺と三焦が全身に巡らせます。この一連の流れのどこかが滞ると、行き場を失った水分が体の下や末端、または皮下に停滞します。これが水毒(水滞)の状態です。

停滞した水分は、それ自体が冷たい性質(陰邪)を持つため、滞った部位を冷やします。手足が冷たい、お腹が冷える、腰が冷える——これらの冷えは、体に余分な水が溜まり、その水が熱を奪い続けている状態と考えます。冷えるとさらに代謝が落ちて水が動かなくなり、冷えとむくみは互いに増強し合います。「冷えだけ」「むくみだけ」を切り離して整えると、もう一方が必ず引っかかります。当薬局では、水と陽気を同時に動かす方向で見立てることが標準です。

水毒が起きる5つの背景
① 胃腸が弱く水を運べない(脾虚水停
② 体を温める腎の陽気が足りない(腎陽虚
③ 血が足りず巡らないことで水も滞る(血虚水停
④ ストレスで気が詰まり水も流れない(気滞水停
⑤ もともと余分な水・脂・老廃物が溜まりやすい(痰湿

2. あなたはどのタイプ?5問×5タイプのセルフチェック

水毒5タイプ別代表生薬(脾虚水停・腎陽虚・血虚水停・気滞水停・痰湿)

各タイプ5問のチェックで、3つ以上当てはまるタイプがあなたの主軸です。複数のタイプが重なるのが普通で、当薬局のご相談でも「血虚水停+腎陽虚」「脾虚水停+気滞水停」のように重ねて見立てるケースがほとんどです。

① 脾虚水停(胃腸虚弱・運べない型)チェック
  • 朝、顔・まぶたがぼんやりむくむ
  • 食後にお腹が張る・眠気が強い
  • 食欲はあるが胃もたれしやすい
  • 軟便気味/お腹がチャプチャプする
  • 舌が淡く、縁に歯型が付いている
② 腎陽虚(温める力不足・芯から冷える型)チェック
  • 手足だけでなく、お腹・腰まで芯から冷たい
  • 夜間にトイレに2回以上起きる
  • 下半身(特に脚)のむくみが強い
  • 朝起きるのがつらく、午前中ずっとだるい
  • 舌が淡く大きい/苔が白く湿っている
③ 血虚水停(女性に多い・痩せ型冷え)チェック
  • 痩せ型〜中肉中背で顔色が白い・くすんでいる
  • 立ちくらみ・めまいがある/髪・爪が弱い
  • 生理痛・月経不順・量が少ない
  • 下半身が冷えてむくむ/妊活中
  • 舌が淡く小さい/苔が薄い
④ 気滞水停(ストレスで詰まる型)チェック
  • むくみが日や場所で変動する(朝は顔・夕方は脚)
  • のどに何か詰まった感じがする
  • PMS・生理前にむくみと胸の張りが強くなる
  • ため息が多い/お腹が張りやすい
  • 舌の縁が赤い/苔が薄白
⑤ 痰湿(水太り・ぽっちゃり型)チェック
  • 体型がぽっちゃりで筋肉が柔らかい・汗をかきやすい
  • 体が重だるく動くのが億劫/膝が痛みやすい
  • 甘いもの・脂っこいもの・冷たい飲み物が好き
  • 痰がからむ/頭が重い・ぼんやりする
  • 舌に厚い白〜黄の苔が付いている

3. 5タイプ別 代表処方の使い分け

当薬局では、見立てた体質に対して、煎じ薬で生薬を組み合わせる方向を軸にご提案します。エキス剤を補助的に併用していただくこともあります。冷えとむくみが同時に出ている水毒タイプの方は、温める生薬(附子・乾姜・桂枝)と水を捌く生薬(茯苓・蒼朮・沢瀉)の比率を、その方の体質に合わせて細かく調整する必要があり、煎じ薬の真価が出やすい領域です。

タイプ 主な代表処方 整える方向
① 脾虚水停 苓桂朮甘湯・参苓白朮散・茯苓飲 脾を補い、湿を化して水を運ぶ
② 腎陽虚 真武湯・八味地黄丸・牛車腎気丸 腎陽を温め、水の停滞を散らす
③ 血虚水停 当帰芍薬散・温経湯 血を補いながら、水を巡らせ温める
④ 気滞水停 半夏厚朴湯・五苓散・柴苓湯 気の巡りを通して、水を捌く
⑤ 痰湿 防已黄耆湯・防風通聖散・二陳湯 湿邪を除き、痰を化して代謝を上げる

当帰芍薬散と防已黄耆湯の見分け方

どちらも「むくみに使う漢方」として広く知られていますが、向く体質は正反対です。当帰芍薬散は痩せ型〜中肉中背で顔色が白く、貧血傾向・生理痛・冷えを伴う方向け。当帰・芍薬で血を補い、茯苓・蒼朮・沢瀉で水を捌く構成です。30〜40代女性の妊活相談で頻度の高い処方になります。一方、防已黄耆湯はぽっちゃり水太りで汗をかきやすく、膝の痛み・疲労感を伴う方向け。黄耆で気を補いつつ防已で湿を除く構成です。同じ「むくみ」でも体型・色味・舌診でまったく違う方向に振り分けます。

煎じ薬とエキス剤の使い分け
水毒は「温める+水を動かす+気血を補う」の3方向を同時に整える必要があり、生薬の比率を細かく調整できる煎じ薬を主力にご提案する方向です。出張や仕事で煎じが難しい日には、エキス剤を補助的に併用していただくこともあります。両方を組み合わせて、生活スタイルに合った続けやすい形に仕立てます。

4. むくみの「出方」で読み解く体質サイン

むくみは、出る時間・出る部位・押した跡の戻り方で、ある程度タイプを推測できます。当薬局のご相談時にも必ず伺うポイントです。

むくみの出方 疑うタイプ 向きやすい処方
朝、顔・まぶたがむくむ 脾虚水停 苓桂朮甘湯・参苓白朮散
夕方、脚・足首が重くなる 血虚水停・腎陽虚 当帰芍薬散・八味地黄丸
生理前にむくみ・胸の張り 気滞水停 柴苓湯・半夏厚朴湯
梅雨・雨の日に全身が重い 痰湿 五苓散・半夏白朮天麻湯
下半身全体・腰まで冷えて重い 腎陽虚 真武湯・牛車腎気丸

5. タイプ別 養生(初夏〜梅雨期)

初夏の養生キッチン:はと麦小豆茶・しょうが粥・冬瓜・なつめ・くるみ

水毒は、漢方だけで整えるよりも、食養生と生活習慣を組み合わせるほうが圧倒的に整いが早くなります。とくに5月下旬〜7月初旬の梅雨期は外湿が体に入りやすく、油断するとすべてのタイプで悪化しやすい時期です。タイプ別に3つずつ養生を挙げます。

① 脾虚水停タイプの養生

  • 冷たい飲み物・氷・サラダ中心の食事をやめ、温かい汁物・お粥を1日1食
  • はと麦茶・とうもろこしのひげ茶・小豆茶を日常の水分に置き換える
  • 食後すぐ横にならず、ゆっくり食べて胃腸の負担を減らす

② 腎陽虚タイプの養生

  • 腰・お腹・足首を冷やさない(夏でも腹巻き・レッグウォーマー)
  • 羊肉・鶏肉・くるみ・にら・しょうがなど温める食材を取り入れる
  • 20分のぬるめ入浴(38〜40℃)で腎を温める/湯上がりに脚の付け根を温める

③ 血虚水停タイプの養生

  • 大棗(なつめ)・龍眼肉・黒豆・黒胡麻・レバー・赤身肉を週3回以上
  • 夜23時前の就寝を目標にする(血は夜に養われる)
  • 過度なダイエットや断食はしない/生理後1週間は特に栄養を補う

④ 気滞水停タイプの養生

  • 軽い散歩・深呼吸・ストレッチで気の巡りを通す
  • 柑橘類(みかん・ゆず・きんかん)・しそ・ミント・ジャスミン茶を取り入れる
  • 夜のスマホ・PCを就寝60分前に切り、緊張を抜く時間を確保する

⑤ 痰湿タイプの養生

  • 甘いもの・乳製品・脂っこいもの・揚げ物・お酒を減らす
  • はと麦・小豆・冬瓜・大根・しょうが・陳皮を取り入れる
  • 1日20分の早歩き・軽い汗をかく運動で湿を発散させる
梅雨期に共通の養生
6月〜7月初旬は外湿が高く、すべてのタイプで水毒が悪化しやすい時期です。除湿で寝室の湿度を50〜60%に保つ、雨の日はゆっくり起きる、生もの・刺身・冷酒を控える、温かい一汁三菜を意識する——この4つだけで体感がかなり変わります。

6. 西洋薬(利尿薬・降圧薬・ステロイド)と漢方の併用

ご相談に来られる方の中には、すでに高血圧でラシックス(フロセミド)・スピロノラクトンなどの利尿薬を服用されている方、降圧薬を服用されている方もいらっしゃいます。漢方は西洋薬と作用機序が異なるため、併用そのものは可能なケースがほとんどです。ただし、いくつか注意点があります。

注意:甘草を含む漢方と利尿薬・降圧薬・ステロイドの併用
甘草(カンゾウ)を含む漢方薬(防已黄耆湯・苓桂朮甘湯・半夏厚朴湯・八味地黄丸など多数)と、ループ系・サイアザイド系の利尿薬、降圧薬、ステロイドを併用すると、低カリウム血症のリスクが上がることが報告されています。これらの薬を服用中の方は、漢方相談時に必ずお伝えください。当薬局では甘草の量を調整した処方をご提案する方向で見立てます。

妊娠中の方は、強い駆水作用のある処方(防風通聖散・防已黄耆湯の長期連用など)は避け、当帰芍薬散・五苓散など妊娠中の使用実績がある処方を中心にご提案します。妊娠の可能性のある方、妊活中の方は、必ず相談時にお伝えください。

7. 冷え・むくみの裏にある本当の体質

水毒は、単独で起きていることはほとんどありません。当薬局のご相談では、必ず他の体質的な偏りと重なって出てきます。水毒は冷えとむくみの根っこですが、その水毒自体にも背景があります。

血虚水停は妊活・PMS・生理痛と地続きです。血が足りない方は水も巡らず、冷えも妊活の停滞も同じ土台から出ています。当帰芍薬散が妊活相談で頻度の高い処方なのはこのためです。気滞水停はPMS・自律神経の乱れ・睡眠と連動し、生理前のむくみ・イライラ・寝つきの悪さを同時に整える方向に向かいます。痰湿はダイエットの停滞・胃もたれ・脂肪太りと表裏一体で、防已黄耆湯・防風通聖散はむくみと体重停滞の両方に使われる処方です。腎陽虚は慢性疲労・低血圧・夜間頻尿と重なり、八味地黄丸・真武湯は冷えと朝のだるさを同時に整える方向で使われます。

だからこそ、冷えだけ・むくみだけを切り離して整えるのではなく、6大体質(冷え・睡眠・婦人科・ダイエット・胃腸・妊活)のなかで「あなたが今、どこに偏っているか」を一緒に見立てたうえで、煎じ薬を仕立てていく方向をご提案しています。

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※養生の感じ方や漢方の効果には個人差があります。妊娠中・授乳中の方、持病をお持ちの方、お薬を服用中の方は事前にお申し出ください。

よくある質問(FAQ)

Q. むくみと冷えが同時にあります。これは別々の体質ですか?

別々ではなく、同じ根っこから出ている可能性が高いです。中医学では、体の水分を温めながら巡らせる力(脾の運化と腎の陽気)が落ちると、温まらない水分が体の下や末端に溜まり、その水分そのものが体を冷やします。冷えてさらに巡らなくなる、という悪循環が起きます。当薬局でご相談に来られる30〜50代女性の半数近くが「足の冷え+夕方のむくみ」を同時に抱えていらっしゃいます。冷えを温めるだけ、むくみを排出するだけ、ではどちらも整いにくく、水と陽気を同時に動かす方向で見立てます。

Q. むくみが気になりますが利尿薬は飲みたくありません。漢方で整えられますか?

ご相談に来られる方の多くが「利尿薬を飲むほどではないけれど夕方の脚がパンパン」「妊娠を考えているので利尿薬は使いたくない」「利尿薬の副作用が心配」という理由で漢方を選ばれます。漢方では、水を強制的に押し出す発想ではなく、水を運ぶ力(脾・腎・気)を底上げして自然に巡らせる方向で整えます。当帰芍薬散・五苓散・防已黄耆湯・苓桂朮甘湯・真武湯などを体質に合わせて組み合わせ、生薬の比率を調整した煎じ薬でご提案することが多いです。

Q. 当帰芍薬散と防已黄耆湯はどう違いますか?

向く体質がまったく違います。当帰芍薬散は、痩せ型〜中肉中背で顔色が悪く、冷え・貧血傾向・生理痛・むくみがある「血虚+水停」タイプの方に向かう処方です。妊活・更年期前後の女性で頻度の高い処方です。一方、防已黄耆湯は、ぽっちゃり水太り体型で、汗をかきやすく、膝が痛みやすく、疲れやすい「気虚+湿邪」タイプの方に向かう処方です。同じ「むくみがある」というご相談でも、舌・脈・体型・色味を見立てて、まったく違う方向でご提案します。

Q. 梅雨どきに体が重く、頭もぼんやりします。これも水毒ですか?

はい、典型的な「外湿による水毒の悪化」です。梅雨期は湿度が高く、体の外の湿が中の湿を引き寄せて、もともと水分代謝が弱い方は体が重い・頭が重い・関節が痛む・お腹が張るといった症状が出やすくなります。中医学で「湿は重濁粘膩」と言い、まとわりついて取れにくい性質があります。五苓散・半夏白朮天麻湯・藿香正気散などを軸に、梅雨期に合わせて生薬を組み替える方向でご提案することが多いです。冷たい飲み物・甘いもの・生もの・乳製品を一時的に控える養生も大切です。

免責事項
本記事は薬剤師による一般的な情報提供であり、個別の診断・治療を行うものではありません。漢方薬の効果には個人差があり、すべての方に同じ結果をお約束するものではありません。妊娠中・授乳中の方、持病をお持ちの方、現在お薬を服用中の方は、漢方相談時に必ずお伝えください。甘草を含む漢方薬と利尿薬・降圧薬・ステロイドの併用では低カリウム血症のリスクが報告されています。むくみが急に増えた・片足だけ強い・息切れを伴う場合は、心臓・腎臓・甲状腺の病気が隠れていることがありますので、まず医療機関の受診をご検討ください。
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