春バテに漢方で体質改善|だるさ・疲れ・やる気が出ない原因と体質別ケアを薬剤師が解説
「寝ても寝ても疲れが取れない」「朝、体が重くて起き上がれない」「やる気が出ないのに理由がわからない」――4月に入ると、こうしたご相談が急に増えます。
病院で検査をしても異常なし。でも確実に体がだるい。この「名前のつかない不調」に悩んでいる方は少なくありません。最近では「春バテ」という言葉で知られるようになりました。
漢方の視点で見ると、春バテは単なる疲れではありません。寒暖差による自律神経の消耗・冬に溜まった「気」の不足・春特有の「肝」の亢進という3つの原因が体の内側で重なり合っています。栄養ドリンクやサプリで一時的にしのいでも、根本には届かないのです。
ドラッグストアの漢方薬は「既製服」のようなもの。体に合えば変化を感じますが、合わなければ何も変わりません。煎じ薬によるオーダーメイドの漢方なら、あなたの「だるさの根っこ」に合わせて生薬の配合を一つひとつ調整できます。
この記事では、春バテが起きる漢方的なメカニズムと、体質別のおすすめ漢方薬・今日からできる養生法をお伝えします。
この記事の監修
柳澤 謙行(やなざわ けんこう)/銀座漢方天風堂薬局 薬剤師
薬剤師歴45年、漢方相談実績1万人以上。鍼灸師・臨床検査技師・ケアマネジャー資格保有。煎じ薬による体質改善を専門とする。
春バテが起きる3つの原因|漢方が捉える「だるさ」のメカニズム
ご相談に来られる方の多くが「歳のせい」「気合いが足りない」と自分を責めています。しかし漢方の立場から見ると、春バテには明確な体の原因があります。しかも、1つではなく3つの原因が同時に作用しているのが厄介なところです。
原因1:寒暖差による自律神経の消耗 ―「気の浪費」
3月から4月にかけて、日中は20℃を超えるのに朝晩は5℃前後。この1日15℃以上の寒暖差が、体に大きな負担をかけています。
体温を一定に保つために自律神経はフル稼働し続けます。漢方ではこの状態を「気を浪費している」と捉えます。気とは体を動かすエネルギーそのもの。寒暖差に対応するだけで気が消耗され、日常生活に回す分が足りなくなるのです。
「特に何もしていないのに疲れる」という訴えは、まさにこの気の浪費を示しています。体が省エネモードに入り、だるさ・眠気・集中力の低下として表面化します。
原因2:冬の「蓄え不足」が春に表面化 ―「脾気虚」
漢方の五行説では、冬は「腎」が主役で、エネルギーを蓄える季節です。しかし現代人の冬は、年末年始の暴飲暴食・睡眠不足・運動不足が重なり、蓄えるどころか消耗し尽くしている方がほとんど。
春は本来、冬に蓄えたエネルギーを使って活動を始める季節です。ところが蓄えが空っぽのまま春を迎えると、エンジンをかけようとしてもガソリンがない状態。これが「脾気虚(ひききょ)」です。
脾は消化吸収を担う臓器で、食べたものを気や血に変換する工場の役割を持ちます。この脾が弱ると、食べても栄養がエネルギーに変わらない。食欲はあるのに体が動かない、という方はこのパターンです。
原因3:春の「肝」の亢進 ― 気の渋滞が全身に波及
漢方の五行説では、春は「肝」の季節です。肝は全身の気の流れを調節する「交通整理役」。春は陽気が上昇するため、肝の活動が一気に活発化します。
この切り替えがスムーズにいけば問題ありません。しかし原因1・2で気が不足していると、肝が気を巡らせようとしても回す気が足りない。結果として気の流れが渋滞し、「肝気鬱結(かんきうっけつ)」が起こります。
気の渋滞が起きると、イライラ・頭痛・胃腸の不調・不眠が連鎖的に発生します。新年度の環境変化やお子さんの入学準備のストレスも加わり、心身ともに追い詰められる。これが春バテの正体です。
春バテ「三重構造」のメカニズム
気の浪費
寒暖差で
自律神経が消耗
蓄えの不足
冬の消耗で
脾気が空っぽ
気の渋滞
肝の亢進で
全身に波及
3つが複合 → 春バテ(だるさ・疲れ・やる気低下)
栄養ドリンクだけでは根本に届かない理由
体質別|春バテにおすすめの漢方薬とセルフチェック
同じ「春バテ」でも、体の中で起きていることは人によって違います。以下のセルフチェックで、ご自身がどのタイプに近いか確認してみてください。
タイプA:エネルギー切れ型(気虚タイプ)
- 朝起きた瞬間からだるい
- 少し動いただけで息切れする
- 声が小さくなった、話すのが面倒
- 風邪をひきやすい、治りにくい
- 食後に眠くなる、胃もたれしやすい
- 汗をかきやすい(特に動いていないのに)
当薬局の春バテ相談で最も多い約35%がこのタイプ。体を動かすエネルギー(気)そのものが不足しています。「頑張りたいのに体がついてこない」という方は、気力の問題ではなく気虚を疑いましょう。
おすすめ漢方薬
補中益気湯(ほちゅうえっきとう):「気を補い、中(胃腸)を益する」という名の通り、気虚の代表処方。全身の疲労感・食欲不振・免疫力の低下に用いられます。当薬局では春バテ相談の第一選択として処方することが多い漢方薬です。
十全大補湯(じゅうぜんたいほとう):気だけでなく血も大幅に不足している方に。冷え・貧血傾向・顔色の悪さを伴う重度の疲労に用いられることがあります。産後や病後の回復にも使われる処方です。
人参養栄湯(にんじんようえいとう):疲れに加えて不眠・不安感がある方に。気血を補いながら精神面も整える方向で働きかけます。
タイプB:胃腸バテ型(脾虚タイプ)
- 食欲がない、または食べても美味しくない
- 胃が重い、もたれる
- 軟便・下痢になりやすい
- 体が重い、むくみやすい
- 口の中が粘る、甘いものが欲しくなる
- 雨の日や曇りの日に体調が悪化する
約25%がこのタイプ。消化吸収の要である「脾」が弱り、食べたものをエネルギーに変換できない状態です。春は湿度が上がり始める季節。余分な水分(湿邪)が脾を圧迫し、胃腸の働きをさらに鈍らせます。
おすすめ漢方薬
六君子湯(りっくんしとう):胃腸の働きを高め、水の停滞を解消する代表処方。食欲不振・胃もたれ・吐き気を伴う春バテに適する傾向があります。近年の研究でグレリン(食欲ホルモン)の分泌を促す作用が報告されています。
参苓白朮散(じんりょうびゃくじゅつさん):慢性的な下痢・軟便を伴う脾虚に。胃腸を立て直しながら余分な湿を取り除く方向で働きかけます。
香砂六君子湯(こうしゃりっくんしとう):六君子湯に気の巡りを改善する生薬を加えた処方。ストレス性の胃腸不調を伴う方に用いられることがあります。
タイプC:イライラ・不眠連動型(肝気鬱結タイプ)
- イライラする、怒りっぽくなった
- 寝つきが悪い、夜中に目が覚める
- 頭痛・肩こりがひどい
- 胸やわき腹が張る感じがある
- ため息が増えた
- 生理前に症状が悪化する
約25%がこのタイプ。ストレスで肝の疏泄機能が乱れ、気の巡りが滞っています。春は肝が最も活発化する季節であり、新年度の環境変化とも重なります。「疲れているのに眠れない」「休日なのにリラックスできない」という方に多い体質です。
おすすめ漢方薬
加味逍遙散(かみしょうようさん):肝気の滞りを流し、血を補い、上半身の熱を冷ます方向で三方から整えます。更年期世代のイライラ・不眠・のぼせを伴う春バテに最も使われる処方の一つです。
抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ):神経の高ぶりを鎮め、胃腸にも配慮した処方。怒りっぽさ・不眠・頭痛を伴う方に適する傾向があります。
柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう):ストレスが強く、動悸・不安感・不眠が顕著な方に。精神的な緊張を和らげ、気の巡りを整える方向で働きかけます。
タイプD:冷え・めまい・貧血型(気血両虚タイプ)
- 立ちくらみ、めまいがある
- 顔色が白っぽい、唇の色が薄い
- 手足が冷たい、寒がり
- 髪がパサつく、爪が割れやすい
- 生理の量が少ない、周期が乱れている
- 物忘れが増えた、ぼーっとすることが多い
約15%がこのタイプ。気だけでなく血も不足している状態です。40代以降のホルモン低下期と重なると、更年期の症状と見分けがつきにくくなります。「疲れ」と「冷え」と「めまい」がセットで出る方は、このタイプの可能性が高いです。
おすすめ漢方薬
当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん):血を補い、水の巡りも整える処方。冷え性で華奢な方に適する傾向があります。めまい・むくみを伴う方にも使われます。
帰脾湯(きひとう):気血を同時に補い、不眠・不安も整える処方。「考えすぎて眠れない」「心配事が頭から離れない」タイプの不眠を伴う春バテに用いられることがあります。
複数のタイプが重なっている方へ
タイプA(気虚)とB(脾虚)、タイプC(肝気鬱結)とD(気血両虚)は特に重なりやすい組み合わせです。「疲れているのに眠れない」「胃腸が弱いのにイライラもする」という方は、複数の体質が絡んでいます。この場合、既成の漢方薬1種類では対応しきれないことがあり、煎じ薬でのオーダーメイド処方が適していることがあります。
漢方薬局での相談がドラッグストアと違う理由
「補中益気湯を買って飲んだけど変わらなかった」というご相談は少なくありません。漢方薬自体の問題ではなく、体質とのミスマッチが起きているケースがほとんどです。
| ドラッグストア(エキス剤) | 漢方専門薬局(煎じ薬) | |
|---|---|---|
| 選び方 | 症状名で選ぶ(「疲れ」で1〜2種類) | 体質・原因を見極めてから処方を決定 |
| 処方の柔軟性 | 既成の配合(既製服) | 生薬の種類・量を個別調整(オーダーメイド) |
| フォローアップ | 自己判断で継続・中止 | 定期的に経過を確認し処方を調整 |
| 複合体質への対応 | 1〜2処方を併用(組み合わせが限られる) | 複数の体質に同時対応する処方設計が可能 |
エキス剤が合わないわけではありません。体質にぴったり合えば、十分に変化を感じることもあります。ただ、春バテのように気の不足・胃腸の弱り・ストレスが複合的に絡む場合は、生薬の配合をきめ細かく調整できる煎じ薬が優位性を持つのです。
当薬局の春バテ相談 体質タイプ分布
※複数タイプが重なる方を含む
今日からできる春バテ解消の養生法|食事・生活習慣・ツボ
漢方薬と併せて、日々の養生で気血を補い、自律神経を整えましょう。春バテ養生のキーワードは「気を補い、脾を養い、肝を整える」です。
食養生:気を補い胃腸を立て直す春の食材
| 目的 | おすすめ食材 | 期待される働き |
|---|---|---|
| 気を補う | 山芋、かぼちゃ、鶏肉、きのこ類、なつめ | 体のエネルギーを底上げし、疲労感を和らげる |
| 脾を養う | 米(白米・雑穀米)、キャベツ、大豆製品、はと麦 | 消化吸収を高め、栄養がエネルギーに変わる土台を作る |
| 肝を整える | セロリ、春菊、柑橘類、酢の物、菜の花 | 気の巡りを助け、イライラ・頭痛を予防する |
| 血を補う | ほうれん草、小松菜、レバー、黒ごま、クコの実 | 冷え・めまい・貧血傾向をサポートする |
山芋(生薬名:山薬)のすすめ
山芋は生薬名「山薬(さんやく)」として漢方にも使われる食材です。脾と腎を同時に補い、消化吸収を高めながらエネルギーの底上げを図る方向で働きます。すりおろしてご飯にかけたり、味噌汁に入れたりと、毎日の食事に取り入れやすいのが利点です。
生活養生:自律神経を整える4つの習慣
- 朝日を浴びて15分歩く:朝の光は体内時計をリセットし、自律神経の切り替えを助けます。漢方では春の「発散」に合った養生法。激しい運動は気を消耗するため、散歩程度がちょうどよいです
- 朝食を抜かない:脾を動かす最初のスイッチが朝食です。消化に良い温かいもの(味噌汁・おかゆ・雑炊)がおすすめ。冷たいスムージーやサラダは脾を冷やすため、春バテ中は控えましょう
- 23時までに寝る:漢方では23時〜1時は「胆の時間」、1時〜3時は「肝の時間」。この時間帯に深い睡眠を取ることで、気血の回復と肝の修復が進むとされています
- 寒暖差対策を徹底する:薄手の上着を常に持ち歩き、体温調節を衣服で補助する。自律神経の負担を減らすことで、気の浪費を防ぎます
おすすめのツボ:足三里・百会・太衝
- 足三里(あしさんり):膝のお皿の下縁から指4本分下、すねの外側。胃腸の働きを高め、全身の気を補う万能ツボ。「足三里に灸すれば万病を防ぐ」と古来より重用されてきました
- 百会(ひゃくえ):頭頂部の中央。全身の陽気が集まるツボで、気の上昇を促し、頭がスッキリする方向で働きます。眠気・ぼーっとする症状にも
- 太衝(たいしょう):足の甲、親指と人差し指の骨が交わるくぼみ。肝の気を巡らせるツボで、イライラ・頭痛・ストレス性の春バテに使われます
各ツボを1回3〜5秒、「痛気持ちいい」程度の強さで5回ずつ押しましょう。朝の足三里・夜の太衝を習慣にすると、日中の気力と夜の安眠の両方をサポートできます。
控えたい食事・習慣
冷たい飲み物・生ものの過食は脾を冷やし、消化力をさらに落とします。過度のカフェイン摂取は一時的に覚醒しますが、その後の反動で気を消耗させます。また、休日の「寝だめ」は体内時計を狂わせ、自律神経の乱れを悪化させる原因です。
よくあるご質問
| Q. 春バテはいつからいつまで続きますか? |
| A. 3月中旬から5月頃まで続くことが多い傾向にあります。寒暖差が大きい3〜4月に発症し、新年度の環境変化が落ち着く5月中旬頃に軽減する方が多いです。ただし5月病に移行する場合もあり、早めの対策をおすすめします。個人差があります。 |
| Q. 春バテと更年期の疲れはどう見分けますか? |
| A. 春バテは季節性で、毎年春先に集中して症状が出るのが特徴です。更年期の疲れは季節を問わず持続し、ホットフラッシュ・発汗・動悸などを伴うことが多い傾向にあります。40〜50代では両方が重なっている場合もあり、漢方では両方の原因に同時にアプローチすることが可能です。個人差があります。 |
| Q. 市販の栄養ドリンクやサプリで春バテは解消しますか? |
| A. カフェインや糖分で一時的に覚醒することはありますが、根本的な体質改善にはなりません。漢方の視点では、春バテは気血の不足や自律神経の乱れが原因のため、体の土台を立て直す方向でのアプローチが重要です。個人差があります。 |
| Q. 漢方薬はどれくらいで変化を感じますか? |
| A. 気虚タイプ(エネルギー切れ型)の方は比較的早く変化を感じることが多く、2〜4週間で「朝の起きやすさ」が変わったという声をいただくことがあります。慢性的な脾虚や気血両虚の改善には1〜3ヶ月が目安です。体質や症状の程度により異なりますので、漢方専門の薬剤師にご相談ください。個人差があります。 |
| Q. 春バテで病院を受診するべきですか? |
| A. 急激な体重減少・38℃以上の発熱・2週間以上続く強い倦怠感がある場合は、甲状腺疾患や貧血など他の病気が隠れている可能性があります。まずは内科を受診し、検査で異常がないことを確認した上で漢方相談をされることをおすすめします。 |
まとめ|春バテは「気合い」ではなく「体質」の問題です
春バテは、寒暖差による気の消耗・冬の蓄え不足・春特有の肝の亢進が重なって起きる体の不調です。「歳のせい」でも「気合いが足りない」のでもありません。
漢方は、この複合的な原因に対して体の内側から同時にアプローチする手段です。体質に合った処方を選べば、「春が来るのが怖くない体」を目指すことができます。
- 全身のだるさ・疲れが中心 → 気を補う方向(補中益気湯・十全大補湯)
- 胃腸の不調が中心 → 脾を立て直す方向(六君子湯・参苓白朮散)
- イライラ・不眠と連動 → 肝気を整える方向(加味逍遙散・抑肝散加陳皮半夏)
- 冷え・めまい・貧血傾向 → 気血を同時に補う方向(当帰芍薬散・帰脾湯)
「自分がどのタイプかわからない」「複数当てはまる」という方こそ、漢方専門の薬剤師にご相談ください。体質の見立てから、あなただけの一剤を仕立てます。
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免責事項
この記事は一般的な健康情報の提供を目的としており、特定の疾患の診断・治療を行うものではありません。漢方薬の効果には個人差があり、すべての方に同様の変化が現れるわけではありません。症状がひどい場合や長引く場合は、医師の診察を受けてください。漢方薬の服用を希望される方は、漢方専門の薬剤師または医師にご相談ください。妊娠中・授乳中の方は、漢方薬の服用前に必ず薬剤師または医師にご相談ください。記事内の情報は2026年4月時点のものです。
※本記事は東洋医学の考え方を情報として提供するものであり、特定の効果・効能を保証するものではありません。漢方薬の服用にあたっては、必ず専門の薬剤師にご相談ください。体調に不安のある方は医療機関への受診をお勧めします。個人差があります。
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