春バテの正体は「気虚」?|だるさ・眠気・食欲不振を漢方と食養生で整える方法

春バテの正体は「気虚」?
だるさ・眠気・食欲不振を漢方と食養生で整える方法

監修

柳澤 謙行(やなざわ けんこう)

銀座漢方天風堂薬局 薬剤師

一人ひとりの体質に合わせた漢方カウンセリングを行っています。春先は「とにかくだるい」「やる気が出ない」というご相談が増える時期で、胃腸の弱りと関係していることが少なくありません。

「朝、起き上がるのがつらい」「日中ずっと眠い」「食欲がわかない」

3月から4月にかけて、当薬局にはこうした訴えの方が毎年増えます。検査では特に異常がない。睡眠時間もそこそこ取っている。なのに、体がずっと重い。

こうした「なんとなくの不調」を、最近では「春バテ」と呼ぶことがあります。

東洋医学では、この状態を「気虚(ききょ)」、つまりエネルギーの不足として捉えます。そしてその背景には、消化吸収を担う「脾(ひ)」の働きの低下が隠れていることが多いのです。

この記事では、春バテが起こるしくみを東洋医学の視点からひもとき、体質に合わせた漢方薬と毎日の食養生をご紹介します。

この記事でわかること

・春バテの正体 — 「気虚」と「脾」の関係
・春にエネルギーが不足しやすい3つの理由
・あなたの春バテ度がわかるセルフチェック
・体質タイプ別に用いられる漢方薬の特徴
・今日から取り入れられる食養生と養生法

春バテとは? — 検査で見つからない「なんとなく不調」の正体

春バテは医学的な病名ではありません。春先に現れるだるさ、倦怠感、眠気、食欲低下、気分の落ち込みといった一連の不調を総称した言葉です。

春先に何らかの体調の変化を感じる方は、実は少なくありません。「病気ではないけれど元気でもない」。この状態が春バテの本質です。

春に多い「なんとなく不調」のご相談(当薬局の傾向)

だるさ・倦怠感
日中の強い眠気
食欲の低下
やる気が出ない
胃もたれ・膨満感

西洋医学の検査では異常が見つかりにくいこれらの症状。東洋医学には、こうした「未病」の段階から体質を整える考え方があります。

東洋医学で見る春バテ — 「気虚」と「脾」の深い関係

東洋医学では、体を動かすエネルギーのことを「気(き)」と呼びます。この気が不足した状態が「気虚(ききょ)」です。

気虚になると、体を温める力が弱まり、消化する力も落ち、「何をするにもおっくう」という状態になります。春バテの諸症状と重なるのは偶然ではありません。

「気」を生み出す臓腑 = 脾(ひ)

では、気はどこで作られるのか。東洋医学では、食べたものから気を生み出す臓腑を「脾(ひ)」と呼びます。西洋医学の脾臓とは異なり、胃腸全体の消化吸収機能に近い概念です。

脾がしっかり働いていれば、食事から十分な気が作られ、体は元気に動けます。反対に脾の機能が落ちると、いくら食べてもエネルギーに変換されず、「食べているのにだるい」という矛盾した状態に陥ります。

春に脾が弱りやすい3つの理由

理由1:寒暖差によるエネルギー消耗
春は1日の気温差が10度を超える日もあります。体温を調節するためにエネルギーを大量に消費し、結果として気が不足します。ご相談に来られる方の中で「夕方になると急にぐったりする」という方は、このパターンが多い印象です。

理由2:冬の食生活の蓄積
冬場は鍋料理や味の濃い食事が増え、胃腸に負担がかかっています。その疲れが春先に表面化し、脾の処理能力が追いつかなくなります。

理由3:肝の活発化が脾を圧迫する
東洋医学には「肝は脾を剋(こく)する」という五行の関係があります。春は肝が活発になる季節。肝の気が強くなりすぎると、脾の働きを抑え込んでしまうのです。ストレスが多い方ほどこの傾向が顕著に現れます。

外的要因 寒暖差
環境変化
体内の変化 肝気の亢進
脾の機能低下
エネルギー面 気の生成不足
=気虚
症状 だるさ・眠気
食欲不振

「自律神経の乱れ」と「気虚」は別の切り口です

春の不調には「自律神経の乱れ(肝気の高ぶり)」と「エネルギー不足(気虚)」の2つの側面があります。イライラや不眠が目立つ場合は前者、だるさや眠気が中心の場合は後者のアプローチが向いています。自律神経の乱れについてはこちらの記事で詳しく解説しています。

あなたの春バテ度は? — 気虚・脾虚セルフチェック

以下のチェックリストで、今のご自身の状態を確認してみてください。当てはまる項目が多いほど、気虚・脾虚の傾向が強いと考えられます。

春バテ度セルフチェック

【だるさ・疲労】

【胃腸の不調】

【冷え・気力の低下】

0〜3個:軽度の春バテ傾向。食養生で十分整えられる範囲です。
4〜7個:中程度の気虚傾向。食養生に加え、漢方薬も選択肢になります。
8個以上:気虚・脾虚がかなり進んでいる可能性。専門家への相談をおすすめします。

舌を見てみましょう

朝、鏡の前で舌を出してみてください。舌の色が淡い(ピンクが薄い)舌のふちに歯の跡がついている白い苔がべったりついている。この3つのうち2つ以上あれば、脾虚の傾向が出ているサインです。

春バテの体質タイプ別 — 用いられることがある漢方薬

同じ「春バテ」でも、体質によって合う漢方薬は異なります。当薬局でご相談が多い3つのタイプをご紹介します。

タイプ1:気虚(エネルギー不足)タイプ — 補中益気湯

とにかくだるい、やる気が出ない、汗をかきやすい。こうした方には補中益気湯(ほちゅうえっきとう)が用いられることがあります。

「補中益気」という名前の通り、「中(胃腸)を補い、気を益す」という処方意図を持つ漢方薬です。黄耆(おうぎ)と人参(にんじん)を中心に、気を持ち上げる生薬が配合されています。

ご相談に来られる方の中で「午前中はなんとか動けるけれど午後になると電池が切れる」とおっしゃる方に向く傾向があります。

タイプ2:脾虚+湿(胃腸が弱く水はけが悪い)タイプ — 六君子湯

食欲がない、胃もたれする、体が重い。胃腸の弱さに加えて「水」の停滞が見られる方には六君子湯(りっくんしとう)が選ばれることがあります。

六君子湯は消化吸収の力を立て直しながら、余分な水分を処理する働きも持っています。「食べたいけれど食べられない」「少し食べるとすぐお腹が張る」という方に向く処方です。

タイプ3:気血両虚(エネルギーも栄養も不足)タイプ — 十全大補湯

だるさに加えて顔色が悪い、めまいがする、髪や肌にツヤがない。気だけでなく血(けつ)も不足している方には十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)が用いられることがあります。

気を補う生薬と血を補う生薬の両方が配合された、いわば「総合的な立て直し処方」です。病後や産後の回復期にも使われる漢方薬で、体全体の底上げを目指す方向で整えます。

タイプ 主な症状 代表処方 向いている方
気虚 だるさ、汗かき、疲れやすい 補中益気湯 午後に急に疲れが出る方
脾虚+湿 食欲不振、胃もたれ、体の重さ 六君子湯 食べたいのに食べられない方
気血両虚 だるさ+顔色不良、めまい 十全大補湯 体全体の底上げが必要な方

漢方薬は体質に合わせて選ぶことが大切です

上記はあくまで代表的な例です。実際には、お一人おひとりの体質・体力・症状の組み合わせによって最適な処方は異なります。自己判断で服用を始めるよりも、漢方の専門家に体質を見てもらったうえで選ぶ方が、ご自身に合った処方を見つけやすくなります。

春のだるさ、体質から整えてみませんか?

お一人でもお二人でも、お気軽にご相談ください。
営業時間:13:00〜19:00(土曜・日曜・祝日定休)

今日から始める春バテ養生法 — 「脾」をいたわる5つの習慣

漢方薬だけに頼るのではなく、日々の生活で脾を養うことが春バテ対策の土台になります。すべてを一度にやる必要はありません。できそうなものから一つずつ取り入れてみてください。

1. 朝一杯の白湯で脾を起こす

起きてすぐ冷たい水を飲むと、脾は冷えて動きが鈍くなります。代わりに、沸かしたお湯を少し冷ました白湯をゆっくり飲んでみてください。胃腸がじんわり温まり、消化が楽に感じられることがあります。

ご相談に来られる方には「まず白湯を1週間続けてみてください」とお伝えしていますが、朝の胃の重さが楽になったと感じる方もいらっしゃいます。

2. 「甘味」の食材で気を補う

東洋医学でいう「甘味」は砂糖の甘さではなく、穀物や芋類の自然なやさしい甘みのことです。脾は甘味を好む臓腑とされ、以下の食材が気を補う方向で働きます。

食材 東洋医学的な働き 取り入れ方
山芋(長芋) 脾と腎を補う代表的な食材 とろろご飯、味噌汁の具に
さつまいも 脾の気を補い、胃腸を温める 蒸して間食に、味噌汁にも合う
かぼちゃ 脾胃を温め、気を益す 煮物、スープでやさしく摂る
米(うるち米) 脾胃の基本食。気の源になる おかゆにすると消化吸収力アップ
なつめ 気と血を補う薬膳の定番 お茶に入れる、そのまま間食に
鶏肉 脾胃を温め、気を補う スープや煮込みで。揚げ物は避ける

3. 腹八分目 — 食べすぎも脾を疲れさせる

脾が弱っているときに無理にたくさん食べると、消化の負担がさらに増します。「しっかり食べなきゃ元気が出ない」と考えがちですが、弱った脾にとっては逆効果です。

量を少し減らして、その分よく噛む。温かい汁物を先に口にする。これだけで脾への負担はかなり変わります。

4. 15分の「ゆる散歩」で気を巡らせる

気虚の方に激しい運動は向きません。ジョギングやハードな筋トレはかえって気を消耗させます。

おすすめは、朝の15分程度のゆるい散歩です。太陽の光を浴びながら歩くことで、体の陽気が目覚め、気の巡りが良くなります。東洋医学では「動則気生(動けば気が生まれる)」と言い、適度に体を動かすことでむしろ気は生まれるという考え方があります。

5. 入浴で脾胃を温める

シャワーだけで済ませている方は、38〜40℃のぬるめのお湯に15分ほど浸かることを試してみてください。体が芯から温まると脾の動きが活発になり、翌朝の目覚めが変わったと感じる方もいらっしゃいます。

熱すぎるお湯は交感神経を刺激して逆効果になるため、「ぬるめでゆっくり」がポイントです。

春の養生で避けたいこと

冷たい飲食:アイスコーヒー、生野菜サラダばかりの食事は脾を冷やします
脂っこいもの・味の濃いもの:消化に大きなエネルギーを使い、脾を疲弊させます
夜更かし:気は睡眠中に回復します。23時までの就寝が理想です
過度なダイエット:食事を減らしすぎると気の材料そのものが不足します

薬剤師おすすめ — 春バテに役立つ簡単薬膳レシピ

特別な材料は不要です。スーパーで手に入る食材で、脾を養い気を補う食養生を始められます。

山芋と鶏肉のとろとろスープ

材料(2人分):長芋150g、鶏もも肉100g、生姜ひとかけ、だし汁400ml、塩・醤油少々

作り方:鶏肉を一口大に切り、だし汁で煮る。火が通ったら、すりおろした長芋を加えてひと煮立ち。すりおろした生姜を加えて味を調えます。

長芋は脾と腎を補い、鶏肉は脾を温め気を益します。生姜が胃腸を温めて消化を助ける、まさに春バテ対策の一杯です。

なつめと生姜の養生茶

材料(1人分):なつめ3個、生姜スライス2枚、お湯300ml

作り方:なつめを半分に割り、生姜と一緒にポットに入れ、お湯を注いで10分蒸らすだけ。ほんのり甘く、体がじんわり温まります。

午後の休憩時間や夕食前に飲むと、疲れた脾をいたわる一杯としておすすめです。当薬局でもお客様にお出ししているお茶です。

食養生は「続けること」が大切です

一度食べただけで劇的に変わるものではありませんが、2〜3週間続けると「なんとなく朝が楽になった」「食欲が戻ってきた」と感じる方もいらっしゃいます。無理なく続けられるものを選ぶことが、一番の養生法です。

よくあるご質問

春バテと夏バテは何が違いますか?
夏バテは暑さによる脱水や食欲低下が主な原因です。春バテは寒暖差や環境変化によるエネルギーの過剰消耗が原因で、東洋医学では「気虚」の状態として捉えます。だるさや眠気が中心で、胃腸の弱りを伴うことが多いのが特徴です。
春バテに漢方薬は使えますか?
漢方医学では、春バテを「気」の不足や「脾」の機能低下として捉え、体質に合わせた処方を組み立てます。補中益気湯、六君子湯、十全大補湯などが用いられることがあります。ただし体質によって適する処方が異なりますので、専門家にご相談ください。
漢方薬はどのくらいで変化を感じますか?
個人差がありますが、気虚に対する補気の漢方薬は比較的早い段階で変化を感じる方が多く、2週間から1ヶ月程度が一つの目安です。食養生と併せて取り組むことで、より実感しやすくなります。
食事以外に春バテ対策としてできることはありますか?
朝の散歩で陽の気を取り入れること、38〜40℃のぬるめのお湯に浸かること、睡眠の質を高めることが大切です。激しい運動よりも、ゆるやかに体を動かす方が気を消耗せずに巡りを良くできます。
漢方相談では何を聞かれますか?
体質を見極めるために、普段の体調・食事・睡眠・便通・冷えの有無・舌の状態などを伺います。春バテの症状がいつ頃からあるか、どんなときに悪化するかも重要な情報です。初めての方でも丁寧にお聞きしますのでご安心ください。

「なんとなく不調」、漢方で体質から見直してみませんか?

セルフチェックで気になった方はお気軽にご相談ください。お二人でのご相談も歓迎しています。
営業時間:13:00〜19:00(土曜・日曜・祝日定休)

免責事項

本記事は一般的な健康情報の提供を目的としたものであり、特定の疾患の診断・治療を目的としたものではありません。漢方薬の効果には個人差があり、すべての方に同じ結果を保証するものではありません。症状が気になる場合は、医師または薬剤師にご相談ください。本記事で紹介している漢方薬は、体質に合わせて専門家が選ぶことで適切に用いられるものです。自己判断での服用はお控えください。

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