夜中に目が覚める・早朝覚醒と漢方|薬剤師が5タイプ別に見立てる中途覚醒の体質づくり

夜中に目が覚める・早朝覚醒と漢方|薬剤師が5タイプ別に見立てる中途覚醒の体質づくり
監修:柳澤 謙行(やなざわ けんこう)
銀座漢方天風堂薬局 薬剤師(薬剤師歴45年以上)
体質を見立てて生薬を組み合わせる「あなたの一剤」を仕立てる煎じ薬を中心に、冷え・婦人科・睡眠・疲労のご相談を専門とする。

夜中に目が覚める・早朝覚醒と漢方|薬剤師が5タイプ別に見立てる中途覚醒の体質づくり

夜中に目が覚めて眠れない30代女性 中途覚醒のイメージ

「夜中に2〜3回目が覚めて、その後なかなか眠れない」「朝4時には目が冴えてしまう」「眠ったはずなのに、起きると体が重い」——睡眠のお悩みは、当薬局の問診票でも30〜40代女性の3人にひとりが訴えるご相談です。寝つきが悪いだけなら一過性の問題で済むことも多いのですが、夜中に目が覚める「中途覚醒」と、明け方に目が冴える「早朝覚醒」は、体質の根が深く絡んでいるサインです。

中医学では、不眠を5つの体質タイプに分けて捉えます。タイプを見立てずに同じ睡眠サポート薬や同じ漢方を続けても、眠りの質は芯から変わりません。この記事では、5タイプの見分け方と、それぞれに合う代表処方の使い分け、神門・安眠など睡眠系のツボ、就寝前の養生をまとめます。

この記事でわかること
  • 不眠の4パターン(入眠障害・中途覚醒・早朝覚醒・熟眠障害)の違い
  • 中途覚醒の中医学的メカニズム(5タイプの病態)
  • あなたの不眠がどのタイプか(5問×5タイプのセルフチェック)
  • 心脾両虚・肝鬱化火・陰虚火旺・痰熱内擾・虚煩 5タイプの代表処方と使い分け
  • 神門・安眠・失眠・百会・内関など、睡眠系のツボの取り方
  • 睡眠薬・抗不安薬を服用中の方が漢方を併用する際の注意点
  • 不眠の裏に隠れている、6大不調(冷え・更年期・疲労)との接点
  • 受診を急ぐべき「危険な不眠」のサイン

1. 不眠の4パターン|あなたの不眠はどれ?

不眠の養生アイテム(酸棗仁・なつめ・龍眼・ラベンダー)

不眠は「眠れない」のひと言で片付けがちですが、実際にはどの時間帯にどう眠れないかで、4つのパターンに分かれます。中医学はもちろん、西洋医学の睡眠医学でも、この4分類は治療方針を分ける重要な軸です。

パターン 特徴 中医学で多い体質
① 入眠障害 布団に入っても30分以上寝つけない。考えごとが止まらない。 肝鬱化火、心脾両虚
② 中途覚醒 夜中に何度も目が覚め、その後なかなか眠れない。0〜3時の覚醒が多い。 肝鬱化火、痰熱内擾、心腎不交
③ 早朝覚醒 普段より2時間以上早く目が覚め、再入眠できない。4〜5時に多い。 陰虚火旺、心腎不交
④ 熟眠障害 時間は寝ているのに、夢が多くて疲れが取れない。起きても倦怠感。 心脾両虚、痰熱内擾、虚煩
補足|時間帯と臓腑の関係
中医学には「子午流注(しごるちゅう)」という、時間帯と臓腑が対応するという考え方があります。23〜1時は胆、1〜3時は肝、3〜5時は肺、5〜7時は大腸が活発になる時間帯です。0〜3時に目が覚める方は肝胆の鬱熱、3〜5時に目が冴える方は肺・腎陰の不足を疑う方向で見立てます。

2. 中途覚醒・早朝覚醒の中医学的メカニズム|5タイプの病態

中医学では、眠りは「心神(しんしん)」が静かに納まることで成立すると考えます。心神を納めるためには、気血の充足・陰陽のバランス・臓腑の協調が必要です。これが崩れた病態を、当薬局では5タイプで整理しています。

タイプ 病態のイメージ こんな方に多い
① 心脾両虚
(しんぴりょうきょ)
気血不足で心神を養えず、眠っても浅い。考えすぎ・働きすぎで気血が消耗。 疲労感・貧血傾向・夢が多い・物忘れ・食欲低下
② 肝鬱化火
(かんうつかか)
ストレスで肝の気が鬱滞→火に化けて心神を上から騒がせる。 イライラ・口苦・寝汗・夜中に目が覚めて怒りや不安で眠れない
③ 陰虚火旺
心腎不交
腎陰の不足で陽を抑えられず、明け方に陽が動き出して目が冴える。 早朝覚醒・寝汗・のぼせ・口渇・腰膝の重だるさ・更年期世代に多い
④ 痰熱内擾
(たんねつないじょう)
水分・脂質の代謝が滞って痰湿となり、それが熱を持って心を揺さぶる。 夢が多い・口苦・痰が絡む・胃もたれ・肥満傾向・お酒や脂っこいものが好き
⑤ 虚煩
(きょはん)
疲れすぎてかえって神経が興奮し、目が冴えて眠れない逆説的な病態。 過労・徹夜明け・育児疲れ・締切前の心身興奮・頭が重いのに眠れない
補足|複数タイプの混在が普通です
実際には「心脾両虚+肝鬱化火」「陰虚火旺+虚煩」など、2つ以上のタイプが組み合わさっている方がほとんどです。当薬局では脈・舌・問診で、どのタイプがどの程度の比率で関わっているかを見立てたうえで、煎じ薬の配合を調整しています。

3. 不眠セルフチェック|あなたはどのタイプ?

不眠5タイプ別の代表生薬(酸棗仁湯・帰脾湯・天王補心丹・温胆湯)

5タイプそれぞれ5問ずつ、当てはまる項目に印をつけてみてください。最も多く当てはまったタイプが、いまのあなたの主体質です。3つ以上当てはまるタイプが2つ以上ある方は、複数体質の混在型です。

① 心脾両虚タイプ — 気血不足の浅い眠り

□ 眠りが浅く、夢を多く見る
□ 起きても疲れが取れていない、立ちくらみ・めまいがある
□ 物忘れが目立つ、考えごとが頭から離れない
□ 食欲が落ちている、または食べてもすぐ疲れる
□ 顔色が白っぽい・つやがない、爪が薄い

② 肝鬱化火タイプ — ストレスで火が立つ夜中の覚醒

□ 0〜3時に目が覚めて、イライラや不安で眠れない
□ 朝起きると口の中が苦い・乾いている
□ 寝汗をかく、上半身がほてる
□ 仕事や家庭でストレスを慢性的に感じている
□ 目が充血しやすい、頭頂部の頭痛がある

③ 陰虚火旺・心腎不交タイプ — 早朝覚醒の代表型

□ 4〜5時に目が冴えて、それから眠れない
□ 寝汗(盗汗)が多い、寝間着がしっとり濡れる
□ のぼせ・ほてりがある、手のひら・足の裏が熱い
□ 口や喉が乾く、夜中に水を飲む
□ 腰や膝がだるい、耳鳴りがある(更年期世代の方に特に多い)

④ 痰熱内擾タイプ — 痰と熱が心を揺さぶる

□ 夢を非常によく見る、悪夢にうなされる
□ 朝起きると喉に痰が絡む、口が粘る・苦い
□ 胃もたれ・げっぷ・胸苦しさがある
□ お酒・脂っこいもの・甘いものが好きで、量も多い
□ 体重が増えやすい、舌の苔が厚く黄色っぽい

⑤ 虚煩タイプ — 疲れすぎて目が冴える

□ 過労・徹夜・育児で慢性的に疲れている
□ 体は疲れているのに、頭だけ冴えて眠れない
□ 神経が高ぶり、ささいな音で目が覚める
□ 頭重感・こめかみの締めつけ感がある
□ 食欲が落ちる、または逆に食べすぎてしまう

4. ① 心脾両虚タイプ|帰脾湯と加味帰脾湯の使い分け

心脾両虚タイプは「眠りが浅く、夢が多く、起きても疲れが取れない」が特徴です。働きすぎ・考えすぎ・産後・大きな病気のあとに気血が消耗し、心神を養う栄養が不足した状態です。代表処方は帰脾湯(きひとう)。当帰・酸棗仁・龍眼肉・人参・黄耆・白朮・茯苓・遠志・木香・甘草・生姜・大棗の12味で、気血を補いながら心神を安んじる配合です。

処方 こんな方に
帰脾湯
(きひとう)
気血の消耗が中心で、貧血傾向・食欲低下・物忘れを伴う方。働きすぎ・産後・育児疲れの不眠の第一選択。
加味帰脾湯
(かみきひとう)
帰脾湯に柴胡・山梔子を加えた処方。心脾両虚+微熱・不安感・イライラが混在する方。更年期世代の不眠の第一選択になることが多い処方です。
人参養栄湯
(にんじんようえいとう)
疲労感が極度に強く、貧血・呼吸が浅い・声に力がない方。十全大補湯に遠志・五味子・陳皮を加えた配合で、心神を安んじる方向に整えます。
食養生のヒント
気血を補う食材:龍眼肉・なつめ・蓮子・百合根・黒ごま・くるみ・黒豆・人参(高麗人参)・鶏肉・卵
心脾両虚の方は、無理な糖質制限・極端な小食・夜食を控えてください。とくに夜中の覚醒が多い方は、夕食を5〜6分目で軽くすると眠りが深くなる方向に整いやすいです。寝る2時間前までに食事を済ませる方向で整えましょう。

5. ② 肝鬱化火タイプ|柴胡加竜骨牡蠣湯と加味逍遙散の使い分け

肝鬱化火タイプは「0〜3時の覚醒・口苦・寝汗・イライラ」が特徴です。慢性ストレスで肝の気が鬱滞し、滞った気が火に化けて心神を上から騒がせる病態です。代表処方は柴胡加竜骨牡蠣湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)。柴胡・黄芩・半夏・桂皮・茯苓・大黄・人参・生姜・大棗・竜骨・牡蠣の11味で、肝の鬱熱を冷ましながら鎮静する配合です。

処方 こんな方に
柴胡加竜骨牡蠣湯
(さいこかりゅうこつぼれいとう)
比較的体力があり、動悸・不安・イライラ・血圧高めの方。胸脇苦満(みぞおち脇のつかえ)があり、夢を多く見る方。
加味逍遙散
(かみしょうようさん)
体力中等度〜やや虚弱で、月経不順・PMS・冷えのぼせ・疲労感が混在する方。女性の肝鬱化火の第一選択。
抑肝散加陳皮半夏
(よくかんさんかちんぴはんげ)
嫌なことを思い出してあれこれ気にして寝つけない方。緊張で肩・歯・あごに力が入りっぱなし、胃もたれ・嘔気を伴う方。
黄連解毒湯
(おうれんげどくとう)
体力充実型で、顔の赤み・のぼせ・口苦が強く、火が立っている実熱の方。短期的に併用するケースが多い処方です。
使い分けのポイント
体力があり胸脇苦満が明らかなら柴胡加竜骨牡蠣湯方向、女性で月経・更年期と絡むなら加味逍遙散方向、緊張で寝つきも悪く胃腸症状もあるなら抑肝散加陳皮半夏方向、と当薬局では見立てています。実際には心脾両虚や陰虚火旺との混在が多く、煎じ薬で柴胡加竜骨牡蠣湯+酸棗仁湯のような配合に仕立てるケースが、夜中の覚醒のご相談ではよくある形です。

6. ③ 陰虚火旺・心腎不交タイプ|天王補心丹と六味地黄丸の使い分け

陰虚火旺・心腎不交タイプは「4〜5時の早朝覚醒・寝汗・のぼせ・腰膝の重だるさ」が特徴です。腎陰の不足で陽を抑えられず、明け方に陽が動き出して目が冴える病態で、更年期世代に特に多く見られます。代表処方は天王補心丹(てんのうほしんたん)。生地黄・天門冬・麦門冬・玄参・丹参・当帰・人参・茯苓・五味子・遠志・酸棗仁・柏子仁・桔梗の13味で、陰を補いながら心神を養う配合です。

処方 こんな方に
天王補心丹
(てんのうほしんたん)
陰虚火旺の代表処方。早朝覚醒・寝汗・のぼせ・口渇・物忘れ・舌の赤みがある方。長期的に体質を整える方向で使います。
六味地黄丸+酸棗仁湯
(ろくみじおうがん)
腎陰虚の体質傾向が中心の方に、酸棗仁湯と組み合わせる煎じ薬として当薬局で見立てることがあります。地黄・山薬・山茱萸・茯苓・牡丹皮・沢瀉の6味で陰を補う配合です。
知柏地黄丸
(ちばくじおうがん)
六味地黄丸に知母・黄柏を加え、虚熱(陰虚に伴う火)を冷ます方向に強めた古典処方。腎陰虚に虚熱が強い体質傾向の方の眠りの養生に、当薬局では煎じ薬の中で必要に応じて取り入れます。
食養生のヒント
陰を補う食材:黒ごま・くるみ・黒豆・蓮子・百合根・松の実・牡蠣・あさり・なまこ・豚肉・卵・梨・桑の実
陰虚火旺の方は、唐辛子・カレー・にんにく・ねぎ・羊肉・ラム・コーヒー・アルコール・たばこなど、体を温めすぎる「辛温」のものを控える方向で整えてください。とくに夜の飲酒は陰を消耗させるため、早朝覚醒を悪化させます。

7. ④ 痰熱内擾タイプ|温胆湯と黄連解毒湯の使い分け

痰熱内擾タイプは「夢が多く悪夢にうなされる・口苦・痰が絡む・胃もたれ」が特徴です。脂っこいもの・甘いもの・お酒の摂りすぎ、運動不足で痰湿が溜まり、それが熱を持って心を揺さぶる病態です。代表処方は温胆湯(うんたんとう)。半夏・陳皮・茯苓・甘草・生姜・大棗・枳実・竹茹の8味で、痰熱を冷ましながら胃腸を整える配合です。

処方 こんな方に
温胆湯
(うんたんとう)
痰湿と微熱が絡む方。夢が多く悪夢、ストレスで暴飲暴食しがち、胃もたれと不眠が同時にある方。
竹茹温胆湯
(ちくじょうんたんとう)
温胆湯に柴胡・桔梗・人参・黄連・香附子・麦門冬を加えた処方。痰熱が強く、咳・胸の不快感・微熱・寝汗を伴う方。
半夏厚朴湯
(はんげこうぼくとう)
咽喉に何か詰まる感じ(梅核気)と不眠が併発する方。気滞と痰湿の重なるタイプに使われます。
食養生のヒント
痰湿を捌く食材:はと麦・小豆・冬瓜・大根・しょうが・しその葉・春菊・セロリ・お茶(ほうじ茶・玄米茶)
痰熱内擾の方は、就寝前のお酒・揚げ物・甘いお菓子・乳製品が翌日の夢の多さに直結します。夕食は腹6分目を意識し、寝る3時間前までに食事を済ませるようにすると、悪夢と中途覚醒が減る方向に整います。

8. ⑤ 虚煩タイプ|酸棗仁湯と甘麦大棗湯の使い分け

虚煩タイプは「過労で体は疲れているのに、頭だけ冴えて眠れない」が特徴です。徹夜明け・育児疲れ・締切前の心身興奮など、疲労が極まったときに、神経だけが興奮状態にスイッチが入ったまま戻らない病態です。代表処方は酸棗仁湯(さんそうにんとう)。酸棗仁・茯苓・川芎・知母・甘草の5味で、肝血を補いながら虚熱を冷まして心神を鎮める配合です。

処方 こんな方に
酸棗仁湯
(さんそうにんとう)
疲労で神経が興奮し眠れない、虚煩の代表処方。寝つきが悪く、眠れても夢が多く、体が疲れているのに頭が冴える方。
甘麦大棗湯
(かんばくたいそうとう)
情緒の波が大きく、悲しみやすい・あくびが多い・突然涙が出る方。育児疲れ・介護疲れで情緒の波が強い方の眠りの養生に、当薬局では煎じ薬の組み合わせの中で用いることがあります。
桂枝加竜骨牡蠣湯
(けいしかりゅうこつぼれいとう)
虚弱体質で、ささいな音・刺激で目が覚める方。動悸・寝汗・夢精・夜尿を伴うこともあります。
使い分けのポイント
酸棗仁湯は「疲れ切った神経の興奮を冷ましたい」とき、甘麦大棗湯は「感情の波で涙が止まらない・気分が落ち込む」とき、桂枝加竜骨牡蠣湯は「虚弱で物音に過敏」のときに使い分けます。実際には心脾両虚と虚煩が併発しているケースが多く、当薬局では帰脾湯+酸棗仁湯の組み合わせを煎じ薬で仕立てる形が多くあります。

9. 不眠ケアに役立つツボ|神門・安眠・失眠・百会・内関

WHO標準経穴に準拠した、不眠に使えるツボを5つご紹介します。就寝の30分前から1か所10秒×3回、ゆっくり呼吸を整えながら押すのが効果的です。強く押すのではなく、息を吐きながら3〜5秒かけてじわっと押し、息を吸いながら離します。

ツボ 位置 期待できる方向性
神門
(しんもん)
手首の内側のしわの上、小指側にある太い腱(尺側手根屈筋腱)の親指側のくぼみ。 心神を鎮める代表ツボ。寝つきが悪い・夢が多い・不安感に。
安眠
(あんみん)
耳の後ろ、出っ張った骨(乳様突起)の下端から、首の方向に指1本分下がったくぼみ。 中途覚醒・自律神経の乱れ・後頭部の頭痛に。
失眠
(しつみん)
足の裏、かかとの中央のいちばんへこんだ部分。 陰虚火旺型の早朝覚醒に。冷え性で寝つきが悪い方にも。
百会
(ひゃくえ)
頭のてっぺん、左右の耳の上端を結んだ線の中央。 気の上衝・頭ののぼせ・不安・自律神経の乱れに。
内関
(ないかん)
手首の内側のしわから、ひじ方向に指3本分上、2本の腱の間。 動悸・吐き気・不安・乗り物酔い・つわりに。
妊娠中の方へのご注意
三陰交・合谷・太衝・血海・肩井などのツボは、妊娠中の強刺激を避けるとされます。妊娠中・妊娠の可能性がある方は、ご自身でのツボ刺激ではなく主治医・薬剤師にご相談ください。神門・安眠・百会は比較的安全とされますが、強く押しすぎないよう注意してください。

10. 睡眠薬・抗不安薬を服用中の方へ

当薬局でご相談に来られる方の中には、すでにベンゾジアゼピン系・非ベンゾジアゼピン系の睡眠薬、SSRI・SNRIなどの抗うつ薬、抗不安薬を服用されている方が多くいらっしゃいます。「薬を減らしたい」「依存が心配」というご希望をよくお伺いします。

基本方針|自己中断はしない、漢方は「並走」から始める
睡眠薬・抗不安薬を急に減らす・中止することは、不眠の悪化(反跳性不眠)・不安・動悸・発汗などの離脱症状のリスクがあります。当薬局では、処方薬を減らす意思決定は必ず処方医にお任せし、漢方は「体質を整えて、薬の必要量が緩やかに減っていく方向を主治医と一緒に目指す」並走の使い方をお勧めしています。

特にご相談の多い併用パターンは以下の通りです。

  • ベンゾジアゼピン系睡眠薬+帰脾湯/加味帰脾湯:気血を補って眠りの質そのものを上げる方向。半年〜1年かけて主治医と連携して減薬する方が増えています。
  • SSRI・SNRI+柴胡加竜骨牡蠣湯/加味逍遙散:肝の鬱熱を冷ます方向で、抑うつと不眠の両方を底支え。柴胡剤は西洋薬との相互作用が比較的少ないことが知られています。
  • 抗不安薬+酸棗仁湯:頓服の抗不安薬の使用頻度を減らしたい方に。酸棗仁湯は連用しても依存性のリスクが比較的低いとされ、夜の頓服的な使い方に向きます(処方薬の減量は必ず処方医とご相談ください)。
甘草含有処方への注意
柴胡加竜骨牡蠣湯・加味逍遙散・抑肝散加陳皮半夏・酸棗仁湯・甘麦大棗湯などには甘草が含まれます。利尿薬(ループ系・サイアザイド系)・降圧薬・ステロイド・グリチルリチン製剤と長期併用すると、低カリウム血症・偽アルドステロン症(むくみ・血圧上昇・脱力)のリスクがあります。複数の処方薬を服用中の方は、必ず薬剤師にご相談のうえ服用してください。

11. 受診を急ぐべき「危険な不眠」のサイン

漢方による体質づくりは長期的な視点で取り組むものですが、以下のサインがある場合は、漢方より先に医療機関での精査をお願いします。

医療機関の受診を強くお勧めするサイン
  • 気分の落ち込み・興味関心の喪失・自責感・希死念慮が併発する(うつ病・適応障害の可能性)
  • 明け方の早朝覚醒が2週間以上続き、起き抜けに気分が最も悪い(うつ病の代表症状)
  • 大きないびきと10秒以上の呼吸停止を家族から指摘される(睡眠時無呼吸症候群の可能性)
  • 手足のむずむず感で眠れない(むずむず脚症候群/レストレスレッグス症候群の可能性)
  • 動悸・息切れ・体重減少・手の震え・暑がりが併発する(甲状腺機能亢進症の可能性)
  • 夜間の頻尿(3回以上)で起きてしまう(前立腺肥大・過活動膀胱・心不全の可能性)
  • 強い不安・パニック発作・幻覚・妄想が併発する(不安障害・精神病性疾患の可能性)

12. 今日からできる就寝前の養生5つ

就寝前のリラックスリチュアル(カモミール茶・ラベンダー・キャンドル)

処方のご相談前後を問わず、生活面でできる養生は5つに整理できます。最初の2週間で1〜2つを取り入れ、続けられるものを増やしていく方向が現実的です。

  1. 夕食は寝る3時間前まで・腹6分目に:食後すぐの就寝は痰熱内擾を悪化させ、悪夢と中途覚醒を増やします。とくに脂っこいもの・甘いもの・お酒は寝る4時間前までに済ませる方向で整えてください。
  2. 寝る90分前に40℃の湯船に15分:深部体温が一度上がってから下がるタイミングで眠気が訪れます。シャワーだけだと深部体温が動かず、入眠が遅れる方が多いです。気滞・肝鬱化火の方は、ローズ・ベルガモット・ラベンダーの精油を1〜2滴垂らすと効果的です。
  3. スマホ・PCは就寝1時間前まで:ブルーライトによるメラトニン分泌の抑制、SNSによる情緒の興奮の両方が肝鬱化火・虚煩を悪化させます。寝室にスマホを持ち込まず、紙の本と暖色のスタンドライトに切り替えるのが理想です。
  4. 就寝前のツボ押しと呼吸法を3分:神門・安眠・百会を10秒×3回、息を吐きながら押す→吸いながら離すを繰り返します。腹式呼吸(4秒吸う→8秒吐く)を5回入れると、副交感神経が優位になる方向に整います。
  5. 就寝前のなつめ茶・蓮子湯:心脾両虚・虚煩タイプの方は、なつめ3粒・龍眼肉5粒・蓮子5粒を煎じたお茶を就寝1時間前に温かく飲むと、気血を補いながら心神を安んじる方向に整います。陰虚火旺の方は、百合根・銀耳・梨を蒸した薬膳がお勧めです。

13. 不眠の裏にある本当の体質

不眠は単独で起きる症状ではありません。当薬局でご相談に来られる方の問診票を304件分析したところ、不眠を訴える方の多くが、別の不調も同時に抱えていることが分かりました。

不眠の体質 同時に抱えやすい不調
心脾両虚 慢性疲労・貧血・月経量減少・物忘れ・産後の体調不良・妊活の停滞
肝鬱化火 PMS・更年期のホットフラッシュ・偏頭痛・歯ぎしり・連休明け疲労・五月病
陰虚火旺・心腎不交 更年期障害・寝汗・耳鳴り・腰膝のだるさ・口渇・ドライアイ・ドライマウス
痰熱内擾 胃もたれ・逆流性食道炎・脂質異常・肥満・脂肪肝・高血圧傾向
虚煩 産後うつ・育児疲れ・燃え尽き症候群・慢性疲労症候群・自律神経失調

心脾両虚の方は気血両虚として妊活の土台が崩れている状態と地続きで、陰虚火旺の方は更年期のホットフラッシュと同じメカニズムを共有しています。肝鬱化火はPMS・偏頭痛、痰熱内擾は胃腸・代謝の不調、虚煩は産後うつ・燃え尽きと、不眠は5つの体質それぞれの「夜に出る顔」と捉えるのが当薬局の見立てです。眠りを「体質づくりの入り口」として使うのが、煎じ薬の真価が出る場面です。

銀座漢方天風堂薬局の店内 漢方相談カウンター

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よくある質問(FAQ)

Q. 夜中に何度も目が覚めるのは、寝つきの悪さとは別のタイプの不眠ですか?

中医学では不眠を「入眠障害(寝つけない)」「中途覚醒(夜中に何度も目が覚める)」「早朝覚醒(4〜5時に目が冴える)」「熟眠障害(眠りが浅い・夢が多い)」の4パターンに分けて見立てます。寝つきが悪い方は肝鬱化火や心脾両虚が中心ですが、夜中の覚醒・早朝覚醒は陰虚火旺・心腎不交・痰熱内擾といった「夜半に陽が動き始める時間帯の不調」を疑う方向で整えます。タイプによって合う処方が変わるため、当薬局では「いつ目が覚めるのか」「どの時間帯から眠れないのか」を最初に詳しくお伺いしています。

Q. 睡眠薬を飲んでいますが、漢方と併用できますか?

基本的には併用可能です。ベンゾジアゼピン系・非ベンゾジアゼピン系の睡眠薬、SSRI・SNRIなどの抗うつ薬、抗不安薬を服用中の方も、漢方を補助的に併走させているケースが当薬局では多くあります。ただし、自己判断で睡眠薬を急に減らす・中止することは離脱症状(不眠の悪化・不安・動悸・発汗)のリスクがあるため、減量は必ず処方医と相談の上で進めてください。漢方は「体質を整えて、睡眠薬への依存度を緩やかに下げていく方向」で寄り添う使い方が現実的です。

Q. 酸棗仁湯を飲んでも眠れません。何が違うのでしょうか?

酸棗仁湯は「疲れすぎて、かえって心身が興奮して眠れない(虚煩)」タイプに合う処方ですが、不眠の方の多くは複数体質が混在しています。たとえば心脾両虚(気血の消耗)と陰虚火旺(潤い不足の熱)が併発している方では、酸棗仁湯だけでは心脾を補う力が足りないことが多いです。当薬局では脈・舌・問診で5タイプの比率を見立てて、酸棗仁湯に帰脾湯や天王補心丹を足す形で煎じ薬を仕立てています。エキス剤で十分整う方も多くいらっしゃいますが、複数体質が絡んで芯から動かない場合には、煎じ薬での配合調整がご体質に合うケースが多くあります。

Q. 毎朝4時に目が覚めて眠れません。これは年齢のせいですか?

早朝覚醒(4〜5時)は中医学では「陰虚火旺」「心腎不交」のサインと捉えます。年齢を重ねると腎陰が消耗しやすく、夜半から明け方にかけて陰が陽を抑えられなくなり、目が冴える方向に向かいます。ただし若い方でも、慢性的な睡眠不足・過労・更年期の前段階で同じ病態が起こります。一方、早朝覚醒はうつ病の代表症状でもあるため、気分の落ち込み・興味関心の喪失・食欲不振・体重減少が併発する場合は、漢方より先に心療内科・精神科の受診をお勧めします。

免責事項
本記事は一般的な漢方の考え方や養生をご紹介するもので、特定の疾患の診断・治療を目的としたものではありません。漢方薬の効果には個人差があります。妊娠中・授乳中の方、ベンゾジアゼピン系・非ベンゾジアゼピン系睡眠薬・抗不安薬・抗うつ薬(SSRI・SNRI・三環系)・ホルモン療法・抗凝固薬を服用中の方、医療機関で治療を受けている方は、必ず主治医・薬剤師にご相談のうえご利用ください。睡眠薬・抗不安薬・抗うつ薬は自己判断での減量・中止により離脱症状(反跳性不眠・不安・動悸・発汗・けいれん)のリスクがあるため、減薬は必ず処方医と相談のうえで進めてください。三陰交・合谷・太衝・血海などのツボは妊娠中の強刺激を避けるとされます。甘草を含む処方(柴胡加竜骨牡蠣湯・加味逍遙散・抑肝散加陳皮半夏・酸棗仁湯・甘麦大棗湯・芍薬甘草湯ほか)を他剤(利尿薬・降圧薬・ステロイド・グリチルリチン製剤など)と併用する場合は、低カリウム血症・偽アルドステロン症のリスクがあるため必ず薬剤師にご相談ください。気分の落ち込み・興味関心の喪失・希死念慮、大いびきと呼吸停止、手足のむずむず感、夜間頻尿(3回以上)、強い不安・パニック発作・幻覚など、不眠の背景に他疾患が疑われる場合は、心療内科・精神科・睡眠外来・内科などでの精査をお勧めします。本記事中の処方名・体質分類は当薬局の見立ての枠組みであり、実際のご提案はご相談の上で決定します。

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