銀座漢方天風堂薬局 薬剤師(薬剤師歴45年以上)
体質を見立てて生薬を組み合わせる「あなたの一剤」を仕立てる煎じ薬を中心に、冷え・婦人科・睡眠・疲労のご相談を専門とする。
生理痛タイプ別×漢方|薬剤師が4タイプで見立てる血の巡りと体質づくり
「毎月、生理1〜2日目は鎮痛剤がないと仕事にならない」「腰の重だるさで動けない」「経血の塊が多くて怖い」——生理痛のご相談は、当薬局の問診票でも30〜40代女性の26%にのぼります。月経不順を含めると、婦人科のお悩みは女性ご相談者の半数以上を占めます。
生理痛は鎮痛剤で痛みを止めても、根本の体質は変わりません。中医学では、生理痛の出方を4つの体質タイプに分けて捉えます。タイプを見立てずに同じ漢方を続けても芯から変わりません。この記事では、4タイプの見分け方と、それぞれに合う代表処方の使い分け、月経周期に合わせた養生をまとめます。
- 生理痛が起こる中医学的メカニズム(4つの病態)
- あなたの生理痛がどのタイプか(5問×4タイプのセルフチェック)
- 瘀血・血虚・気滞・寒湿 4タイプの代表処方と使い分け
- 月経周期(卵胞期・排卵期・黄体期・経期)に合わせた漢方の切替え
- 三陰交・血海・関元・地機など婦人科のツボの取り方
- 生理痛の裏に隠れている、6大不調(冷え・妊活・更年期)との接点
- 受診を急ぐべき「危険な生理痛」のサイン
1. なぜ生理痛が起こるのか|4つのメカニズム
西洋医学的には、生理痛はプロスタグランジンによる子宮収縮や、子宮内膜症・子宮筋腫などの器質的疾患が原因とされます。中医学では、痛みの原因を「不通則痛(巡らないから痛む)」「不栄則痛(栄養が足りないから痛む)」の2つに大別し、さらに4つの病態に整理します。
| タイプ | 病態のイメージ | こんな方に多い |
|---|---|---|
| ① 瘀血 (おけつ) |
古い血が滞って流れない。子宮内膜が剥がれにくく、刺すような痛みが出る。 | 経血色が暗く塊が多い、刺すような痛み、生理1〜2日目がピーク、シミ・くまが目立つ |
| ② 血虚 (けっきょ) |
血の量そのものが不足。子宮内膜を栄養できず、月経後半にじわじわと痛む。 | 経血量が少ない、月経後半〜終了後の方が痛い、めまい・立ちくらみ、爪が薄い |
| ③ 気滞 (きたい) |
ストレスで気の流れが詰まり、それが血の流れも止める。月経前から張る痛み。 | PMSが強い、月経前に乳房や下腹部が張る、イライラ、ため息、月経が始まると軽くなる |
| ④ 寒湿 (かんしつ) |
冷えと水分代謝の停滞が子宮の血流を妨げる。温めると楽になる痛み。 | 下腹部が冷たい、温めると痛みが軽減、むくみやすい、雨の日や冬に悪化 |
実際には「気滞+瘀血」「血虚+寒湿」など2つ以上のタイプが組み合わさっている方がほとんどです。当薬局では、どのタイプがどの程度の比率で関わっているかを見立てたうえで、煎じ薬の配合を調整しています。
2. 生理痛セルフチェック|あなたはどのタイプ?
4タイプそれぞれ5問ずつ、当てはまる項目に印をつけてみてください。最も多く当てはまったタイプが、いまのあなたの主体質と考えられます。
① 瘀血タイプ — 古い血が滞る痛み
□ 刺すような・突き刺すような痛みで、特定の場所が痛む
□ 生理1〜2日目にピークが来る
□ シミ・くま・唇の色の暗さが目立つ
□ 肩こり・頭痛・冷えが慢性化している
② 血虚タイプ — 血が足りない痛み
□ 月経後半〜終了後にじわじわと痛む(鈍痛)
□ めまい・立ちくらみがある、貧血傾向
□ 爪が薄い・縦すじが目立つ・髪のパサつき
□ 月経周期が長め(35日以上)になりがち
③ 気滞タイプ — 詰まる痛み
□ 月経が始まると痛みが軽くなる
□ ため息が多い、のどに何か詰まる感じ
□ 月経周期がストレスで前後にぶれる
□ 仕事や家庭でのストレスを慢性的に感じている
④ 寒湿タイプ — 冷えと湿の痛み
□ 雨の日・冬・梅雨に痛みが悪化する
□ むくみやすい、体重が水分で増減しやすい
□ 経血に水っぽいおりものが混じる
□ 冷たい飲み物・生野菜・甘いもので体調を崩しやすい
3. ① 瘀血タイプ|桂枝茯苓丸を中心に
瘀血タイプの代表処方が桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)です。桂枝・茯苓・牡丹皮・桃仁・芍薬で瘀血を温めながら流す配合で、経血色が暗く塊が多い、刺すような月経痛、肩こり・頭痛を伴う方に用いられます。
瘀血が長期化して下腹部に腫瘤感がある方には桃核承気湯(とうかくじょうきとう)を、瘀血と血虚の両方が混在する方には当帰芍薬散+桂枝茯苓丸のような組み合わせを煎じ薬で調整する方向で整えます。
活血する食材:黒酢・玉ねぎ・らっきょう・青魚(さば・いわし)・紅花茶・黒豆
瘀血の方は、冷たい飲み物・生もの・甘いもの・揚げ物が血流の停滞を進めます。温かいスープ・煮物・蒸し料理を主軸にし、月経1週間前から特に意識すると体感が変わる方が多いです。
4. ② 血虚タイプ|当帰芍薬散と十全大補湯の使い分け
血虚タイプは「経血量が少なく、月経後半にじわじわ痛む」「立ちくらみ・めまいを伴う」が特徴です。代表処方は当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)。当帰・芍薬・川芎で血を補い、白朮・茯苓・沢瀉で水分代謝を整える配合で、貧血傾向のある月経痛、冷え、むくみを伴う方に用いられます。
疲労感が強く全身の気血が不足している方には十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)を、月経後半の腹痛が特に強い方には四物湯(しもつとう)を煎じ薬の中に組み込む方向で整えます。
血を補う食材:黒ごま・黒豆・なつめ・人参・レバー・赤身肉・ほうれん草・牡蠣・小松菜
無理なダイエットや「お肉を控える」食生活は、血虚の方の月経痛を悪化させます。月経後の1週間(卵胞期)に意識的にたんぱく質と鉄分を増やす方向で整えてください。
5. ③ 気滞タイプ|加味逍遙散と四逆散の使い分け
気滞タイプは「月経前1週間のPMSが特に強く、月経が始まると楽になる」が特徴です。代表処方は加味逍遙散(かみしょうようさん)。柴胡・薄荷で気の巡りを開き、当帰・芍薬で血を補う配合で、PMS・イライラ・のぼせ・乳房張りを伴う月経痛に用いられます。
| 処方 | こんな方に |
|---|---|
| 加味逍遙散 (かみしょうようさん) |
PMSと冷えのぼせが混在、イライラと疲労感の波がある方。婦人科の第一選択になることが多い処方です。 |
| 四逆散 (しぎゃくさん) |
緊張で胸脇が張る・乳房が痛い・歯ぎしりが強い方。柴胡・芍薬・枳実・甘草の4味でシンプルに気の鬱を開きます。 |
冷えのぼせや疲労感が混在する方は加味逍遙散方向、純粋に「ストレスで体に力が入りっぱなし」の方は四逆散方向で整える、というのが当薬局の見立ての枠組みです。実際には瘀血が併発していることが多く、加味逍遙散+桂枝茯苓丸の組み合わせを煎じ薬で仕立てるケースは婦人科のご相談で最も多い形です。
6. ④ 寒湿タイプ|温経湯と当帰四逆加呉茱萸生姜湯の使い分け
寒湿タイプは「下腹部が冷たく、温めると痛みが楽になる」「雨の日や梅雨に悪化」が特徴です。代表処方は温経湯(うんけいとう)。呉茱萸・桂皮・生姜・当帰・川芎・芍薬・牡丹皮・人参・甘草・半夏・麦門冬・阿膠の12味で、子宮を温めながら血を補う配合で、冷え性の月経痛、唇の乾き、不妊傾向のある方に用いられます。
末端の冷えとしもやけが目立つ方には当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)を、むくみと水様性のおりものが多い方には当帰芍薬散+苓桂朮甘湯のような組み合わせを煎じ薬で調整する方向で整えます。
7. 月経周期に合わせた漢方の切替え
婦人科の漢方は、月経周期4期(卵胞期・排卵期・黄体期・経期)に合わせて配合を切り替えると効果的です。当薬局では、ご相談に来られた方の周期を伺い、煎じ薬を月の前半・後半で組み替えるご提案をしています。
| 時期 | 体内の動き | 主軸の方向性 |
|---|---|---|
| 卵胞期 (月経終了〜排卵) |
血を補い、内膜を育てる時期 | 補血主体(当帰芍薬散・四物湯方向) |
| 排卵期 | 気の巡りで卵を出す時期 | 理気主体(加味逍遙散・四逆散方向) |
| 黄体期 (排卵後〜月経前) |
温めて気血を充実させる時期 | 温陽+理気(温経湯・加味逍遙散方向) |
| 経期 (月経中) |
古い血を排出する時期 | 活血主体(桂枝茯苓丸・桃核承気湯方向) |
8. 生理痛に効くツボ|三陰交・血海・関元・地機
WHO標準経穴に準拠した、生理痛に使えるツボを4つご紹介します。月経1週間前から1か所10秒×3回を1日2セット、入浴後の体が温まったタイミングが効果的です。
| ツボ | 位置 | 期待できる方向性 |
|---|---|---|
| 三陰交 (さんいんこう) |
内くるぶしの中心から指4本分上、すねの骨の後ろ側。 | 婦人科系全般、血の巡り・冷え・睡眠 |
| 血海 (けっかい) |
膝のお皿の内側上端から指3本分上、太ももの内側。 | 瘀血を流す代表ツボ、月経痛・PMS |
| 関元 (かんげん) |
おへその中心から指4本分下。 | 下腹部を温める、冷え性の月経痛・不妊 |
| 地機 (ちき) |
膝の内側のくぼみから指5本分下、すねの骨の内側後縁。 | 急性の月経痛、即効性のある止痛点 |
三陰交・合谷・太衝・血海などのツボは妊娠中の強刺激を避けるとされます。妊娠中・妊娠の可能性がある方は、ご自身でのツボ刺激ではなく主治医・薬剤師にご相談ください。
9. 受診を急ぐべき「危険な生理痛」のサイン
漢方による体質づくりは長期的な視点で取り組むものですが、以下のサインがある場合は器質的疾患(子宮内膜症・子宮筋腫・腺筋症など)の可能性があります。漢方より先に婦人科で精査をお願いします。
- 鎮痛剤を毎月3日以上、または1日3錠以上服用しないと過ごせない
- 過多月経(経血量が多すぎる、レバー状の塊が頻繁、貧血がある)
- 月経外の出血(不正出血)が複数回ある
- 性交痛・排便痛がある
- 10〜20代から重く、年々悪化している(子宮内膜症の典型)
- 急に痛みが激しくなった、発熱を伴う(卵巣嚢腫の茎捻転・骨盤内炎症などの可能性)
10. 今日からできる生理痛の養生5つ
処方のご相談前後を問わず、生活面でできる養生は5つに整理できます。月経1週間前から意識すると、3周期目あたりから体感が変わる方が多いです。
- 月経前1週間は冷たいものを控える:冷たい飲み物・アイス・サラダ・刺身など、子宮を冷やす食品を意識的に避けます。代わりに温かいスープ・煮物・蒸し料理を主軸に。
- 下腹部と腰の温めセット:腹巻きと湯たんぽ、または使い捨てカイロを腰(仙骨)と下腹部に貼る。月経1週間前〜経期2日目までは積極的に温めます。寒湿タイプの方は特に効果的です。
- 鉄分・たんぱく質・発酵食品:レバー・赤身肉・青魚・卵・納豆・味噌汁を毎食どこかに入れる。血虚の方は、月経終了後の1週間を「補血ウィーク」として意識すると周期全体が安定する方向に向かいます。
- 月経中の運動はゆるく:経期の激しい運動・腹筋・冷たい水泳は避け、軽いストレッチや散歩程度に。骨盤を緩める前屈や四つん這いストレッチが下腹部の緊張を和らげる方向に向かいます。
- 夜の湯船と香りでストレスを抜く:気滞タイプの方は40℃の湯船に15分、ローズ・ベルガモット・ゼラニウムの精油を1〜2滴垂らすと、肝の気が巡りやすくなることが多いです。シャワーだけで済まさないことが大切です。
11. 生理痛の裏にある本当の体質
生理痛は単独で起きる症状ではありません。当薬局でご相談に来られる方の問診票を304件分析したところ、生理痛を訴える方の多くが、別の不調も同時に抱えていることが分かりました。
| 生理痛の体質 | 同時に抱えやすい不調 |
|---|---|
| 瘀血 | 肩こり・頭痛・くま・冷え・下肢静脈瘤・更年期のホットフラッシュ |
| 血虚 | めまい・立ちくらみ・髪のパサつき・寝つきの悪さ・妊活の停滞 |
| 気滞 | PMS・ため息・胸脇の張り・歯ぎしり・連休明け疲労・更年期PMS |
| 寒湿 | 下半身の冷え・むくみ・梅雨時の不調・帯下(おりもの過多)・不妊 |
特に血虚と寒湿の方は、気血両虚や子宮の冷えという形で妊活の土台が崩れている状態と地続きです。瘀血は更年期のホットフラッシュや脳血管リスクとも共通する病態を含みます。生理痛を「鎮痛剤で乗り切る毎月のイベント」と捉えるのではなく、ベースにある体質を一緒に見立てるのが煎じ薬の真価が出る場面です。
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よくある質問(FAQ)
Q. 生理痛で漢方を始めるのはどのタイミングが良いですか?
月経の周期は28日サイクルで体質が変動するため、最低でも3周期(約3か月)続けて初めて変化を感じられる方が多いです。当薬局では、月経痛が強くなる前の「卵胞期〜黄体期」から内服を始めて、痛みのピークを迎える経期にどう変わるかを観察します。次の月経が始まる2週間前から始めるのが理想です。鎮痛剤は無理に止めず、漢方と並行して使いながら徐々に必要量が減る方向を目指します。
Q. ピルや鎮痛剤と漢方は併用できますか?
基本的には併用可能ですが、相互作用に注意が必要です。低用量ピル服用中の方は、当帰や紅花など活血作用の強い生薬は血栓リスクと関連が議論されているため、必ず婦人科主治医と当薬局の薬剤師の双方にご相談ください。鎮痛剤(NSAIDs)は短期使用なら問題ないことが多いですが、長期常用の方は胃粘膜保護や腎機能の確認も含めて主治医と調整します。
Q. 市販の桂枝茯苓丸を飲んでも生理痛が変わりません。なぜですか?
桂枝茯苓丸は瘀血タイプの方に合う処方ですが、生理痛の方は血虚や気滞、寒湿が混在していることがほとんどです。瘀血を流すだけでは、不足している血を補うことや、滞っている気を巡らせることはできません。エキス剤一剤で芯から変わらない方は、煎じ薬で配合を調整した方が体に合うことが多いです。当薬局では脈・舌・問診で複数体質の比率を見立てて、ひとり一剤を仕立てています。
Q. 生理痛が重いと将来不妊になりますか?
重い生理痛そのものが不妊の直接原因とは限りませんが、子宮内膜症や子宮筋腫など器質的な疾患が隠れている場合は、妊孕性に影響することがあります。鎮痛剤が毎月3日以上必要、塊が多い、性交痛がある、月経外の出血があるなどの場合は、必ず婦人科で精査をお勧めします。中医学的には、瘀血や気血両虚は妊娠の土台が崩れている状態とも捉えるため、妊活前から体質を整える方向で漢方を始める方が増えています。
本記事は一般的な漢方の考え方や養生をご紹介するもので、特定の疾患の診断・治療を目的としたものではありません。漢方薬の効果には個人差があります。妊娠中・授乳中の方、低用量ピル・ホルモン療法・抗凝固薬・婦人科の処方薬を服用中の方、医療機関で治療を受けている方は、必ず主治医・薬剤師にご相談のうえご利用ください。三陰交・合谷・太衝・血海などのツボは妊娠中の強刺激を避けるとされます。甘草を含む処方(加味逍遙散・四逆散・温経湯・芍薬甘草湯ほか)を他剤(経口避妊薬・利尿薬・降圧薬・ステロイドなど)と併用する場合は、低カリウム血症・偽アルドステロン症のリスクがあるため必ず薬剤師にご相談ください。鎮痛剤を毎月3日以上必要・経血の塊が多い・月経外の出血・性交痛・10〜20代から年々悪化する月経痛などのサインがある場合は、子宮内膜症・子宮筋腫・腺筋症など器質的疾患の可能性があるため、婦人科での精査をお勧めします。本記事中の処方名・体質分類は当薬局の見立ての枠組みであり、実際のご提案はご相談の上で決定します。
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