監修:銀座漢方天風堂薬局 薬剤師 柳澤謙行(漢方薬剤師歴45年・日本東洋医学会会員)
「40代に入ってから急に太りやすくなった...」
「若い頃と同じ生活をしているのに、体型が変わってきた...」
「更年期の症状と同時に、体重も増えてきた...」
このような悩みを抱える方は少なくありません。年齢を重ねるにつれて、体は確実に変化していきます。しかし、その変化を自然なものとして受け入れつつ、より心地よい状態を保つ方法があります。
この記事では、東洋医学の視点から40代以降の体質変化を理解し、年齢に合った養生法(体調管理法)についてご紹介します。若い頃と同じ方法ではなく、年齢に応じた適切なアプローチで、心身の調和を保つヒントをお伝えします。
年齢による体質変化のメカニズム
西洋医学から見た40代の身体変化
40代以降の体型変化には、以下のような要因が関連しています。
筋肉量の変化:
- 30代以降、年間約1%の筋肉量が減少すると言われています
- 基礎代謝が低下し、同じ食事量でもエネルギー消費量が減少
- 特に女性は閉経前後でさらに筋肉量減少が加速する傾向
ホルモンバランスの変化:
- 女性は40代から更年期に向けてエストロゲンが減少
- 男性もテストステロンが徐々に減少する「男性更年期」の可能性
- 脂肪の蓄積パターンが変化(女性は下半身からウエスト周りへ)
- インスリン感受性の低下による代謝変化
生活習慣の影響:
- 仕事や家庭の責任増加によるストレス
- 運動量の減少と座り仕事の増加
- 睡眠の質の変化
- 長年の食習慣の蓄積効果
これらの変化は自然な加齢現象の一部であり、完全に避けることはできませんが、適切な対応で影響を緩和することは可能です。
東洋医学における年齢と体質の考え方
東洋医学では、年齢による変化を「気・血・水」のバランスの自然な移り変わりとして捉えます。
七年周期(女性)・八年周期(男性)の考え方:
古典「黄帝内経」では、女性は7年ごと、男性は8年ごとに体に変化が訪れるとされています。特に女性の場合:
- 35歳(5×7):顔色に変化が現れ始める
- 42歳(6×7):顔つきに老いの兆しが見え、髪に変化
- 49歳(7×7):天癸(生殖能力)が尽き、閉経に向かう
「腎」の気の変化:
東洋医学では、「腎」は生命エネルギーの根源と考えられ、加齢とともに「腎の気」が徐々に減少すると考えます。「腎の気」の低下は以下のような変化と関連します:
- 髪や歯の変化(白髪、抜け毛、歯の弱化)
- 骨や関節の弱化
- 生殖機能の低下
- 耳の聴力や腎臓機能の変化
陰陽バランスの変化:
40代以降は特に「陰」が減少し、相対的に「陽」が強くなる傾向があります:
- 女性の場合、エストロゲン(陰)の減少により、のぼせやほてり(陽)が生じやすくなる
- 体内の水分(陰)が減少し、乾燥傾向(陽)が強まる
- 消化力の変化(胃腸の「火」=陽が不安定に)
東洋医学ではこれらの変化を「病気」ではなく、自然な流れとして捉え、その時々の状態に合わせた「養生」(健康管理法)を重視します。
40代女性の体型変化と東洋医学的な捉え方
「腎の気」の変化と体質への影響
東洋医学では、「腎」は単なる臓器ではなく、生命力の源、先天的な精気を蔵する場所と考えられています。40代以降、この「腎の気」の変化が体型にも影響を与えます。
水分代謝への影響:
- 「腎」は水分代謝を司るとされ、腎の気の低下により水の巡りが滞りやすくなる
- 特に下半身のむくみや水分停滞が生じやすい
- 水分と老廃物の排出が不十分になりやすい
代謝への影響:
- 「腎の陽気」(温める力)の低下で、全身の代謝活動が緩やかに
- 冷えが生じやすくなり、エネルギー消費が減少
- 若い頃と同じ食事量でも、エネルギーとして消費されにくくなる
このような変化に気づき、それに合わせた生活習慣の調整が、40代以降の体型管理には重要です。
「気滞」と「瘀血」の増加傾向
40代以降は、「気滞」(気の流れの滞り)と「瘀血」(血の滞り)が生じやすくなるとされています。
気滞の増加:
- 仕事や家庭のストレスが蓄積
- 責任や役割の増加による精神的緊張
- 気の巡りの低下が、代謝や消化機能に影響
- イライラや胸の張りなどの症状が出やすくなる
瘀血の増加:
- 血行不良による血液循環の低下
- 肩こりや冷えなどの症状につながる
- 皮膚のくすみや弾力の低下
- 生理不順や更年期症状との関連
気滞と瘀血は互いに影響し合い、体の巡りを低下させることで、代謝にも影響を与えます。特に気滞があると食欲が増し、瘀血があると脂肪が蓄積しやすくなる傾向があります。
「脾胃」の機能変化と消化力
「脾胃」は消化吸収を司る重要な機能です。年齢とともに脾胃の働きも変化します。
脾胃機能の変化:
- 消化吸収力の徐々な低下
- 食べ物からの栄養素変換効率の変化
- 「気」を生み出す力の低下
- 水分代謝との関連(脾は水湿を運ぶ役割も担う)
若い頃と同じ食事をしても、脾胃の機能変化により、エネルギーへの変換や代謝が変わってきます。また、年齢とともに「脾」と「腎」の関係も重要になり、腎の気が脾の働きを支える役割が大きくなります。
更年期と体型変化の関連性
ホルモンバランスの変化と「気・血・水」
更年期の女性ホルモンの変化は、東洋医学でいう「気・血・水」のバランスに大きく影響します。
エストロゲン減少と東洋医学的な捉え方:
- エストロゲンは「陰」の性質→減少により相対的に「陽」が強まる
- 「血」の質と量に影響→体内の潤いが低下
- 「水」の代謝に変化→むくみやすさや体液分布の変化
- 「気」の安定性に影響→ホットフラッシュや感情の波
ホルモンの変化により、東洋医学でいう「腎陰虚」(腎の陰の不足)や「陰虚火旺」(陰の不足による相対的な熱の亢進)の状態が生じやすくなります。これが更年期特有の症状につながると考えられています。
「のぼせ・ほてり」と体質変化の関係
更年期に特徴的な「のぼせ」や「ほてり」は、体内のエネルギーバランスの変化と関連しています。
のぼせ・ほてりのメカニズム:
- 「陰」(冷やす力)の低下と「陽」(温める力)の相対的増加
- 自律神経の不安定さによる体温調節機能の乱れ
- 上半身への気や熱の上昇(東洋医学では「上火」と表現)
- 心(心臓だけでなく精神活動も含む)の不安定さの表れ
これらの変化は一時的なものですが、この時期の体温調節の乱れが代謝にも影響を与え、体型変化につながることがあります。また、のぼせやほてりを避けるために冷たいものを摂りすぎると、かえって消化機能を低下させることもあるため注意が必要です。
精神面の変化と体型への影響
更年期は身体的な変化だけでなく、精神面での変化も大きい時期です。東洋医学では心身は密接につながっていると考えるため、精神状態が体型にも影響を与えます。
精神面の変化:
- 役割の変化(子育ての一段落、親の介護、キャリアの転機など)
- 自己認識の変化(若さや美に対する価値観の再考)
- 感情の波が大きくなりやすい
- 睡眠の質の変化(不眠や早朝覚醒など)
これらの精神的な変化がストレスとなり、食習慣に影響を与えることがあります。例えば:
- ストレスによる過食や暴食
- 感情の波に合わせた食欲変動
- 気分転換や慰めとしての食べ物への依存
- 不眠によるホルモンバランスの乱れと代謝への影響
精神的な安定と体型管理は互いに影響し合うため、心の健康にも目を向けることが大切です。
40代からの養生法の基本的な考え方
「無理をしない」という東洋医学の知恵
東洋医学の養生法の基本は「無理をしない」ことです。特に40代以降は、若い頃のような無理が利かなくなり、自分の体と対話しながら適切な養生を見つけることが重要になります。
無理をしないための考え方:
- 年齢に合った心地よさを見つける
- 自分の変化を受け入れる姿勢
- 「若い頃と同じでなければならない」という固定観念から離れる
- 体の声に耳を傾け、疲れや不調のサインを見逃さない
- 休息と活動のバランスを大切にする
若い頃と比べて体重が増えたことを必要以上に否定的に捉えるのではなく、「今の自分に合った健康的な状態」を目指すことが、持続可能な養生につながります。
「巡り」を意識した生活習慣の工夫
40代以降は特に「巡り」(気・血・水の流れ)が滞りやすくなるため、巡りを良くする生活習慣が大切です。
巡りを良くする工夫:
- 適度な運動(ウォーキング、ヨガ、太極拳など)
- 入浴でじっくり体を温める
- マッサージや指圧で血行促進
- 深い呼吸を意識する習慣
- 身体を締め付ける服装を避ける
特に血行促進は代謝を高め、老廃物の排出を助ける効果があります。冷えは「巡り」の大敵なので、体を冷やさない工夫も大切です。
「バランス」を重視した食事の考え方
40代以降の食事は、若い頃と同じ量や内容ではなく、年齢に合ったバランスを意識することが重要です。
年齢に合った食事のポイント:
- 量より質を重視(栄養密度の高い食材選び)
- 消化しやすさを考慮(長時間の煮込み料理など)
- 食事のリズム(朝・昼・夕のバランス、夕食は軽めに)
- 旬の食材を取り入れる
- 温かい食事を基本に
特に40代以降は、胃腸の機能も若い頃より低下していることが多いため、「脾胃」を労わる食べ方が大切です。また、栄養素のバランスも重要で、特にタンパク質は筋肉量維持のために意識したい栄養素です。
40代からの体質タイプ別アプローチ
「気滞」タイプに適した生活の工夫
ストレスを感じやすく、胸や脇腹の張りがある「気滞」タイプの方には、気の巡りを促す工夫が役立ちます。
気滞タイプの特徴:
- ストレスがたまりやすい
- 胸やみぞおちが張った感じがする
- イライラしやすい
- 食欲にムラがあり、ストレスで食べ過ぎることも
- 肩こりや頭痛を伴うことが多い
気滞タイプのアプローチ:
- ストレス管理(瞑想、深呼吸、趣味の時間)
- 適度な運動で気の巡りを促す
- 柑橘系の香りや、レモンバームなどのハーブティー
- マッサージや軽いストレッチ
- 柔軟性を高める運動(ヨガなど)
気滞タイプの方は精神的なストレスが体型にも影響するため、心の健康を意識することが大切です。
「瘀血」タイプの方が意識したいポイント
血行不良の傾向がある「瘀血」タイプの方は、血液循環を促す工夫が役立ちます。
瘀血タイプの特徴:
- 顔色がくすみやすい
- 唇や爪の色が暗い
- 生理痛や生理不順がある(女性の場合)
- 肩こりや筋肉の凝りが強い
- 打撲したようなあざができやすい
瘀血タイプのアプローチ:
- 血行を促す食材(生姜、黒豆、菊芋など)
- 温めながらのマッサージ
- 入浴でしっかり体を温める
- 適度な有酸素運動
- 水分摂取の意識(血液をサラサラにする)
瘀血タイプの方は、代謝が低下しやすいため、体を温め、血行を良くすることで代謝アップを目指すことが効果的です。
「水滞」タイプに関連する考え方
むくみやすく、水分代謝が滞りやすい「水滞」タイプの方は、水分バランスを整える工夫が役立ちます。
水滞タイプの特徴:
- むくみやすい(特に下半身)
- 朝と夜で体重変動が大きい
- 湿度の高い時期に調子が悪くなる
- 水分を摂り過ぎると体がだるくなる
- 尿の回数や量が少ない傾向
水滞タイプのアプローチ:
- 水分摂取方法の工夫(一度に大量ではなく少量ずつ)
- 利尿作用があるとされるハト麦茶や冬瓜のスープなど
- 塩分の取り過ぎに注意
- 足を高くして休む時間を作る
- 足首や膝周りの軽いマッサージ
水滞タイプの方は、体内の水分循環を促すことで、むくみの軽減とともに体重管理にもつながることがあります。
季節に合わせた養生法の調整
春から夏にかけての養生ポイント
春から夏は「陽」の気が高まる季節です。この時期に合わせた養生法を取り入れましょう。
春の養生ポイント:
- 新陳代謝が高まる季節→軽い運動を取り入れる好機
- 肝(東洋医学では感情と関連)が活発になる→ストレス管理を意識
- 風邪(風の邪気)が入りやすい→首元の保護
- 季節の変わり目の体調管理→睡眠と休息の質を高める
夏の養生ポイント:
- 暑さによる体力消耗に注意→無理をしない
- 汗による水分・ミネラル不足に注意→適切な水分補給
- 冷たい飲食物の取り過ぎに注意→胃腸を冷やさない工夫
- 冷房による冷えに注意→腹部を保温
春から夏にかけては、体が外に向かって開く季節です。この自然な流れに合わせつつ、過度な消耗を避ける養生が大切です。
秋から冬にかけての養生ポイント
秋から冬は「陰」の気が高まり、体が内に向かってエネルギーを蓄える季節です。
秋の養生ポイント:
- 乾燥への対策→水分補給と保湿
- 肺(東洋医学では気と関連)を労わる→呼吸法や適度な運動
- 収穫の季節→食物繊維や栄養豊富な食材を取り入れる
- 感情の安定→瞑想や芸術鑑賞など心を整える活動
冬の養生ポイント:
- 体を温める食材(根菜類、生姜など)の活用
- 「腎」を労わる→十分な休息と睡眠
- 冷えからの保護→腰や下半身の保温を特に意識
- 静かな活動→エネルギーを蓄える季節としての過ごし方
秋から冬にかけては、体が内に向かってエネルギーを蓄える季節です。この自然な流れに沿った養生が、年間を通した健康につながります。
年間を通した養生リズムの考え方
東洋医学では、季節の変化に合わせた生活リズムを「天人合一」(自然と人間の調和)の考えとして重視します。
年間を通した養生の知恵:
- 四季の変化に敏感になり、その変化に合わせた調整を行う
- 季節の変わり目(立春、立夏、立秋、立冬など)前後は特に体調管理に注意
- 旬の食材を取り入れる(自然の恵みには、その時期に必要な栄養素が含まれている)
- 季節に合わせた活動と休息のバランスを見つける
- 年齢とともに季節の影響を受けやすくなることを意識する
40代以降は特に季節変化の影響を受けやすくなるため、季節の変わり目には養生に気を配り、年間を通して自然なリズムで過ごすことが大切です。
専門家による体質診断と個別アドバイス
年齢に合った体質評価の重要性
東洋医学による体質診断は、年齢による変化を踏まえた総合的な評価が特徴です。
体質診断の重要性:
- 同年代でも個人差が大きい→画一的なアドバイスではなく個別評価が必要
- 年齢による自然な変化と、改善可能な要素の区別
- 体質の複合的な要素を総合判断(単一の体質だけでなく、複数の体質特徴を持つことが多い)
- 生活環境や生活習慣を含めた総合的視点
専門家による体質診断では、舌や脈、腹部の状態など、さまざまな角度から「気・血・水」のバランスを評価し、その人に合った養生法を見つけるサポートをします。
漢方相談で分かる自分に合った養生法
漢方の専門家による相談では、一人ひとりの体質や状態に合わせた具体的なアドバイスを受けることができます。
漢方相談の特徴:
- 舌診(舌の色や舌苔の状態)
- 脈診(脈の速さ、強さ、リズムなど)
- 腹診(お腹の張り、温度、硬さなど)
- 問診(生活習慣、食習慣、睡眠、体調の変化など)
- 四診(望診・聞診・問診・切診)による総合的な判断
これらの診断を通じて、その人の「証」(体質・状態の総合的な判断)を見極め、体質に合った養生法や漢方薬の提案を行います。40代以降は特に個人差が大きくなるため、オーダーメイドのアプローチが効果的です。
まとめ:年齢を重ねる喜びと心地よい体調管理
40代以降の体型変化は、無理に若い頃の状態に戻そうとするよりも、年齢に合った心地よい状態を目指すことが大切です。
東洋医学が教える「養生」の考え方は、年齢による自然な変化を受け入れつつ、その時々の最善の状態を保つための知恵です。「無理をしない」「自然のリズムに沿う」「バランスを重視する」といった基本姿勢は、40代以降の体調管理において特に価値があります。
年齢を重ねることは、単なる「老化」ではなく、人生の新たな段階への移行です。体の変化に戸惑うこともあるかもしれませんが、その変化を理解し、それに合った養生法を見つけることで、いつの年代も心地よく健やかに過ごすことができるでしょう。
自分の体質を知り、年齢に合った無理のない養生を続けることが、長期的な健康と心の安定につながります。一人ひとりの体質や生活スタイルに合った方法を見つけるために、専門家のアドバイスを活用するのも一つの選択肢です。
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※本記事は東洋医学の考え方を情報として提供するものであり、特定の効果・効能を保証するものではありません。体調に不安のある方は医療機関への受診をお勧めします。